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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

競輪選手で重要なのは性格と生活

 
瀧澤氏はその長い競輪人生の中で何度も挫折を経験したというし、原氏も日本競輪選手養成所で退所寸前にまで追い込まれる経験を味わった。挫折を経験した時、あるいは逆境に追い込まれた時に、それを乗り越えるために大切なことは何なのか。両氏から熱い言葉をいただいた。
 
 私はいつも「これしかない」と思っているんです。競輪とモーグルを両立させるのがつらい時期があり、その時は逃げ出したい気持ちでした。でも、やってみて駄目だったら自分の力不足だったと納得できますが、やらないで逃げ出すということは自分の生きる道を否定してしまうことになります。そうすると生きる気力もなくなってしまうし、競輪とモーグルを取ったら「原大智」ではなくなってしまう―そんな気持ちで毎日を過ごしていました。それは今も変わりません。挫折しそうになった時は、自分にはこの道しかないし、結局はやっぱり今自分が取り組んでいることが楽しいんだな、と感じるんです。これが自分の生きる目的だと決意し、心を奮い立たせる。そうすると、また頑張ろうと思えます。
瀧澤 私のモットーは「一歩踏み込め、そこは極楽」というものなんです。ギリギリまで追い込まれてどうしようもない時には、まず一歩踏み込もう、と。これまでずっとそういうふうに生きてきました。苦しいけれど、一歩前に踏み出す勇気―大事な時にその勇気を出せるように、普段からそうした自分をつくっていくことが大切です。競輪選手でも、練習だけすればいいというわけではない。むしろ、毎日の生活のほうが大事だと言いたいくらいです。私は自転車に乗ることだけで強い競輪選手になれるとは思っていません。重要なのは「性格」と「生活」。だらしない生活をしている人はだらしないレースをしてしまうというのが持論なんです。練習でも、自転車だけの練習では「人の2倍、3倍の練習をした」とは言えません。普段の生活まで巻き込んでいかないと、人の何倍も練習したことにならないはずなんです。そこまでやればレースの時も自信が持てますし、一歩踏み込めるようになります。ライン戦で他の選手を巻き込んでいくためにも、競輪において人間性は非常に大事です。「こいつのためになら」と思える選手が後ろに付けば、強力なラインになりますから。
 他の人がやっていないことにチャレンジするというのは、すごく楽しいことですし、逆に「何でやらないの?」と思ってしまいます。挑戦するぶんには無料ですし、他人から何か言われたとしても、自分がやりたいことに挑まないのはもったいないですよね。まず、とりあえずやってみてからその先のことを考えればいい。何もやらずに後悔するよりもやって後悔するほうが断然いいと思っていますし、私は何かに挑戦することは当たり前のことだと考えて生きています。
瀧澤 ありきたりの言葉になりますが、失敗を恐れずどんどん挑戦することが大切です。そして、失敗を失敗と思わない。それくらいの気持ちで何事にもチャレンジしていく。これは人から聞いた話ですが、昔、ある美術学校があったそうです。その学校で教授から、「1点だけ最高傑作をつくりなさい」もしくは「何点でもいいから失敗を恐れずに作品を提出しなさい」という宿題が出ました。その結果、より良い作品が生まれたのは後者だったそうです。要するに、失敗を恐れずに取り組んだことの中に宝物があるよ、と。その話を聞いて、失敗を失敗と思わずにチャレンジすることの大切さを教わった気持ちになりました。特に若い人はそういう心持ちでいると、いろいろなことに積極的に取り組めるのではないかと思います。

競輪を子どもたちの憧れの職業にしたい

漫画「弱虫ペダル」が人気を博したり、2021年10月には新規格の競輪レース「PIST6」が開幕したりと、自転車競技がポピュリティを獲得している中で、両氏はこれから競輪界をどのようにしていきたいと考えているのだろうか。対談の最後に、今後の目標やヴィジョンを2人に聞いてみた。
 最近は日中開催が多くなってきているので、お客様の声なども耳に入るようになってきました。競輪界全体の売り上げは良くなってきていると思いますが、個人的にはよりいっそうお客様に競輪場に来てほしいなという気持ちがあります。さらに言うと、競輪場が若い人たちのたまり場になってもっとスポーツ観戦として楽しんでほしいですね。その中でいくらかでもお金を賭けてもらえれば嬉しいです。
瀧澤 私は日本競輪選手養成所の所長という立場から、お客様に愛され、喜んでいただき、社会に貢献できる選手を輩出することを今後も続けていきます。それと同時に、競輪選手を子どもたちが憧れる職業にまで引き上げていきたいですね。例えば、野球選手やサッカー選手がそうであるように、「将来どんな仕事がしたい?」と子どもたちに質問した時に、「競輪選手になりたい」と言ってもらえるような職業、スポーツに成長していってほしいなと思っています。そのためにも、子どもたちが憧憬の念を抱けるような選手をどんどん世に送り出していきたいですね。

(取材:2022年6月)
取材 / 文:徳永 隆宏
写真:竹内 洋平

 

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