巻頭企画 天馬空を行く

 

困難としっかり向き合うことの大切さ

現役時代は幾度もケガを経験したり、監督時代に13連敗を経験したりと、高橋氏の野球人生は決して順風満帆の時ばかりではなかった。熱狂的な巨人ファンである演出家のテリー伊藤氏は、高橋氏について「どんな逆境をも耐え得る精神力の強さの持ち主」だと評している。そんな同氏に、「困難や逆境に立ち向かうことの意義」について尋ねた。

「困難や逆境のない人生というものは、それはそれで幸せかもしれませんが、自分が望もうが望むまいがそうした状況は訪れるものです。大事なのはそのような現実をまずは受け入れることだと私は思っています。13連敗した時も、ケガをした時も、自分が当事者としてまずはその現実を受け入れていましたし、そこから逃げるとその先も同じことを繰り返すことになるだろうと考えていました。困難としっかりと向き合うと、逆境を乗り越えられた時に、『このようなことを実践したから乗り越えることができたのか』、あるいは『こういった要因があったから困難な状況を招いてしまったのか』といった具合に原因や理由が見えてくるものなんです。私自身、そのようにして厳しい現実を受け入れることで、『次に同じことが起きたらこんなふうにやってみよう』と、当時の経験を未来に向かうための原動力にできたと感じています」

自分に与えられた場所で結果を出す

高橋氏はプロ入り直前の1997年12月、田淵幸一氏との対談において「サイン用の座右の銘はいま考えているところです」と話していた。それから24年が経ち、改めて同氏に座右の銘を問うたところ、よどみない答えが返ってきた。

「現役時代、ケガや肉体的な衰えを感じ始めて改めていろいろと考えるようになっていた頃に、ノートルダム清心女子大学の前理事長でシスターの渡辺和子氏が言われた『置かれた場所で咲きなさい』という言葉と出合い、胸に響きました。逆境や困難に直面した時に、『どうしてこうなってしまったのだろう』と口にしたところで何も始まりません。今いる所が自分の生きる場所ですし、やるべきことがある場所なのだから、そこで最善を尽くすべきなのだと、この言葉を通して考えるようになったんです。巨人の監督を務めていた時も、そこが自分に与えられた場所であり、これが私のやるべき仕事なのだと感じていました。といっても、ずっと同じ所にいるというわけではなく、そこで結果を残せばまた違った自分の場所が与えられますから――私は今でも『自分が置かれた場所で咲こう』と思っています」

いろいろな人と会って見聞を広めたい

2018年に巨人の監督を退任した後、「これまで野球一筋・巨人一筋で生きてきたが、やっと自由な時間ができた。今はこの時間を有効に活用して新たな挑戦をしたい」と話していた高橋氏。インタビューの最後に、今後のビジョンや目標、やってみたいことについてうかがった。

「選手・監督時代を通して、ずっと同じ方向でしか野球を見てきませんでしたが、監督を退任してからのこの3年間で野球の見え方が大きく変わったんです。私の精神状態も当時とは違いますし、野球評論家の仕事を通していろいろと発見できたことがあります。とにかく、何事も見る角度によって目に映る光景が違ってくるのだということを強く感じるようになりましたね。一度野球の現場を離れて多種多様な経験をしてみたいと思っていた矢先に、新型コロナウイルス感染症が流行したので、思い描いていた通りの時間が過ごせていないというもどかしさはあります。もっとさまざまな場所に足を運び、これまで接触のなかったジャンルの人たちにお会いしてみたいです。そうすることで、自分の中でものの見え方や考え方がよりいっそう広がっていくことを期待しています。今、会ってみたい人はそれこそ大谷翔平選手の恩師・花巻東高校の佐々木洋監督。160㎞のボールを投げ、140mの打球を飛ばす選手を育成されたご経験もさることながら、あの素晴らしい人格を磨いた教育論など、たくさんうかがってみたいですね」

(取材:2021年11月)
取材 / 文:徳永 隆宏
写真:竹内 洋平

 

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巻頭企画「天馬空を行く」には、元関脇・安美錦の安治川竜児氏がご登場!25歳で右膝靱帯断裂、その後も度重なる大ケガに見舞われながらも不屈の「挑戦者魂」で復活し、関取在位歴代1位の記録を打ち立てた同氏に、親方としての心構えや、苦境を乗り越える方法、相撲で勝つために必要なことについて、ユーモアを交えながら語っていただきました!どうぞお楽しみに!!

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