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巻頭企画天馬空を行く

 

小学生の頃から光っていた井上尚弥選手

井上尚弥選手は、2020年にイギリスメディアの世界最強ランキングパウンド・フォー・パウンド(PFP)で1位に選出されるなど、現在、日本で最も注目を集めているボクサーといっても過言ではない。井上選手はどういった点が「特別」なのか、彼はなぜここまで強くなったのか。それぞれの視点から、同選手の魅力を語ってもらった。
 
大橋(秀) 私は尚弥が小学6年生の時に初めて会ったのですが、その頃からすで に彼はすごかったですね。今のような存在になることを私は当時から確信していました。ただ彼がここまでのボクサーに成長した一番の要因は、ご両親の存在だと思います。尚弥の両親は昔から厳しくて、今でも彼のことをよく叱るんです。あの両親がいなかったら、誰も現在の尚弥を怒れなくなってしまう。親が厳しく接してくれるおかげで、彼は今もまったく慢心していないんですよ。私はこれまで、世界チャンピオンになった途端に慢心して駄目になっていったボクサーを何人も見てきました。
大橋(孝) 支援する立場としては、毎回、周囲の人たちが「今度の試合、井上尚弥は絶対に苦戦するよ」と言う中で、その予想を彼が見事にくつがえしていくのを見るのが痛快で仕方ありません(笑)。彼は自分の家族のこともしっかり面倒を見ていて、自己管理もできており、ご両親のこともとても大事にしている。最近は人としても偉大だな、と感じることが多いですね。
大橋(秀) 彼は今でもまだまだ成長し続けているんですよ。最初の世界挑戦の時、試合中に一度、トレーナーである父親の真吾さんとの関係に亀裂が生じかけたことがありました。でも自分に子どもが生まれてからは尚弥も親の気持ちがよりわかるようになり、真吾さんへの接し方が変わりましたね。私は、父子関係が日に日によくなっていくのを目の当たりにしました。親子で同じ業界にいると往々にして関係がうまくいかなくなるものですが、井上親子は数少ない成功例だと思います。真吾さんは本当に嘘がなく真っすぐな方なので、尚弥もお父さんのそういうところをリスペクトしているのでしょう。

経営では芯の強さを持つことが大事

2人はそれぞれ、ボクシングジムの会長、会社の代表取締役という肩書を持つ経営者。大橋会長には『5人の世界チャンピオンを育てた大橋流マネジメント術』(出版元:祥伝社)というタイトルの著書もある。組織・会社をマネジメントしていくうえで2人が特に心がけているのはどういったことなのだろうか。
 
大橋(孝) マネジメントに関しては本当に難しく、今でも苦労することが多いですね。ちょうど現在、当社は「ライフメイクパートナーズ」という新規事業に挑戦しており、それがようやく始動するので、今までのものを壊して新しいものをつくる体制にシフトしているところなんです。そんな中で、先日、大橋会長から言われた「勇気を忘れない」という言葉が胸に響いています。「お金をなくすのは小さな損失、名誉をなくすのは大きな損失、勇気をなくすとすべてを失う」、と。やっぱり戦う意志をなくしてしまうとすべて終わってしまう。新しいものをつくっている時というのは、それに対してねたむ人がいたり、あるいは離れていってしまう人がいたりする。逆に、もうかっている時にはいろいろな人が近寄ってきますよね。だから、マネジメントをするうえでは、そんな周りの状況に左右されない芯の強さを持つことが必要だと思います。それから、闘志を抱き続けること、自分に付いてきてくれる人のことをよく見るということ――そういった心がけが大事ですね。
大橋(秀) 私の仕事に関しては、言ってみれば猛獣使いの役割を担っているようなものなので(笑)。選手やスタッフにあまり厳しく接しても駄目だし、かといって甘やかしすぎたら手をかまれてしまいますし・・・ボクシングジムのマネジメントというのは今でも本当に難しいですね。ボクシングジムでは、コーチやトレーナーの存在が何よりも大切なんです。当ジムのトレーナーの中には私の高校・大学の後輩もいますが、昔からの知り合いのほうが一緒に仕事がしやすいですし、頼りにもなります。基本的に私は、技術的な指導よりも選手の個性に合わせた心のマネジメントを自分の主な仕事だと考えているんです。先日、珍しく尚弥のスパーリングが良くなかったので、2年ぶりに彼とボクシングの話をしました(笑)。普段はほとんどボクシングと関係のない話をしているんです。
大橋(孝) 私にとっても、大橋会長におけるトレーナーのような、信頼できる右腕の存在がとても重要だと思っています。残念ながら今はまだいないので、そういう存在をつくっていくことがこれからの課題ですね。

過去の常識を良い方向に変えていきたい

大橋会長の同書の中で印象的な言葉に、「私の基本的な考えは『自分にできることをする』『道がない所にはレールを敷く』」というものがある。大橋社長は、この「フロンティア精神」に対して共感を覚えるところが多いという。
 
大橋(孝) 先ほどもお話ししましたように、今まさに当社は不動産業界で誰もやったことがない事業に取り組んでおり、それがようやく形になってきたところなので、大橋会長の「道がない所にはレールを敷く」という言葉には強い共感を覚えますね。世界的にも、コロナ禍の影響でさまざまな常識が崩れていっているのが、この2021年だと思います。不動産業界において、これまで多くの人が「正しい」と思い込んでいた常識を良い方向に変えていく側になりたい――そんな気持ちでいます。
大橋(秀) ボクシング業界に関していうと、2022年から毎月興行をやるようになるんですよ。とはいえ現在はコロナ禍で興行をすること自体が大変で、なかなか難しい状況ではあります。でも、かといって「できない」で終わってしまうと、世の中が正常に戻った時に勝負に負けてしまう。だから、今こそ踏ん張らないといけません。これこそが「新しいレール」であり、私も今までになかったことに取り組んでいる最中ですね。

 

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