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巻頭企画天馬空を行く

 

自分自身をさらけ出す仕事である女優業

その後、モデルやバラエティの仕事を中心に活動していた田中氏は、2016年に「女優宣言」を行い、女優の仕事をスタートする。女優とモデル、バラエティの仕事の違いについて、またそれぞれの仕事をする際に心がけていることについてうかがった。

「3つの仕事は全然違うように感じます。それぞれ楽しいですし、またそれぞれに難しいところがありますね。ミスコンを受けた際に『世界基準の美』というものがあることを知ったんです。具体的にいうと、『黒髪ロングに褐色の肌、ぱっちりした二重に、セクシーなボディ』といったもの。でも、『それって、つくりこんでしまえば誰でもいいのでは?』と思ってしまったんですよね。『ミス・ワールド世界大会』を終えて帰国してから、しばらくはモデルの仕事を中心にしていました。モデルの世界では日本にも独自の美の基準があるんですよ。『色白で、はやりのメイクをして』というような。その時も『私じゃなくてもいいよね』という、ひねくれた気持ちがどこかにありました。もちろん仕事で評価されたり、いい写真が撮れたりした時は嬉しいんですけど、モデルというのは基本的にはあくまで洋服を見せる仕事なんです。そのような仕事に慣れていたせいもあって、女優の仕事を始めた当初は、自分自身をさらけ出せることにすごく嬉しさを感じた反面、それがうまくできませんでした。表情一つとっても、モデルとして雑誌で使える表情というものは自分の中に持っていましたが、女優の仕事ではそれが通用しないんですよね。だから、まずはいろいろな感情に合わせて笑顔をつくる練習から始めたんです。それから、女優の仕事を始めて一番の喜びだったのは、私が自分の短所だと思っていた部分を『魅力的だ』と評してもらえるようになったことでした。例えば、私は気が強そうに見られがちな自分の顔が嫌いだったんです。もともと内向的で読書が好きな性格なのに、内面と外面の間にギャップがあるのが嫌だった。モデルの仕事をする時ははやりのメイクをして、いかにそのギャップを隠すかということに気を配っていましたから。他方、女優の仕事では見た目も含めて自分ではコンプレックスに感じていた部分を長所として認めてもらえるのが嬉しかった。でもその反面、自分の個性をさらけ出していかないと、どうしても見ている人の印象に残りづらいんですよね。そういった意味では、自分の殻を破ることに苦労しました。私が好きなゲームに例えると、ミスコンやモデルの仕事って、メイクやファッションなどの武器を身に付けて仕事現場で戦うといったイメージなんです。逆に女優は一度素っ裸にされて敵の前に放り出されるといった感じなので、最初のうちは本当に怖かったですね。いや、正直に言えばいまでも怖いです(笑)。女優の仕事を続ける限りはずっと素っ裸のままなので、自分を磨き上げるしか上達する方法はないのかなと感じています」

共演した先輩俳優たちの助言が励みに

田中氏が女優として本格的に活動を始めたのは27歳の時。女優デビューとしては比較的遅めといえるが、そのために苦労したことや、あるいは反対にメリットなどはあったのだろうか。

「女優さんって、特殊な役よりもOLとか主婦を演じることのほうが多いんですよね。そういった役で視聴者の共感を得るのは、地元で育って就職し、主婦になるといったような一般的な人生だと思うんです。だから、自分が実際に地元で就職活動なども経験し、普通の生活を送っていたというのが、女優の仕事をするうえでは貴重だったのかなと思っています。大学まで静岡で育ったことが今の仕事に生きていると感じることは多いですね。反対に少し残念なのは、撮影の現場に行くたびに、小・中・高・大の一貫校に大学から入ったような気持ちになることでしょうか。私が足を踏み入れた時にはすでに、現場でみんなの絆が出来上がっていたというか。皆さんが顔見知りのようになっている現場に参加する機会が多いので、私も10代の頃からこの世界に飛び込んでみたかったなという思いは何度も味わいましたね。いわゆる同期の方もいないですし、そういう意味では早くから女優の仕事を始めた人のことをうらやましいなと感じることはあります。私は昔から人に弱みを見せたくない性格なんですよ。ここ1、2年くらいで少しは言えるようになりましたが、女優デビューしたての頃は、ミスコン出身だったということもあり、『自分の欠点を見せては駄目なんだ』という感覚が残っていました。ただ、ありがたいことに共演者の方に助けていただくことが多いんですね。例えば、何度かドラマでご一緒させていただいた生瀬勝久さんからは『道子ちゃんは俺と一緒で目が大きいよね。目が大きい役者の演技のこつを教えてあげるよ』などと言っていただいたりしました。他にも現場で教わることは多く、そんな時は仲間として迎え入れてもらえたという感じがしてとても嬉しいです」

眠れないほど緊張した女優デビュー時

田中氏の女優デビュー作はドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」だった。高視聴率を誇る国民的人気シリーズであり、同氏が演じたのは病院長の秘書兼愛人である「魔性の女」という難役。しかも共演は大先輩である名優・西田敏行氏だった。当時はどのような心境だったのだろう。

「『ドクターX』で女優デビューする直前は、できることなら撮影当日がこないでほしいといった心境でしたね(笑)。もちろん、女優の仕事が決まったこと自体は嬉しいですし、『ドクターX』は家族でも見ていたので、両親もドラマ出演をすごく喜んでくれました。ただ、それまでずっとモデルとして活動してきて初めての映像の仕事だったので、知らない世界に飛び込むという不安感で数日間は眠れませんでしたね。今でも当時のことを夢に見るくらいです。実は初日の撮影を終えた後、どうやって帰宅したのかも覚えていないんですよ。家に帰ってマネジャーさんの顔を見たらほっとして大泣きしたことは記憶しているんですけど(笑)。ドラマの撮影でまず驚いたのは、現場のスタッフさんの人数やカメラの数の多さですね。実は、第一話の最終場面の撮影が初日だったんです。その時は撮影が順撮りではないということにもびっくりしましたし、私はまだ演技の『え』の字も理解していない状態でした。それなのに一番初めに撮ったシーンが大先輩である泉ピン子さんをはねのけるという演技だったので、『本当に私がこんなことをしていいの?』という気持ちになったことを覚えています。いま思えば、西田さんや泉さんという大先輩の胸を借りることができて、本当に恵まれた女優デビューでしたね。初日から西田さんのアドリブ攻撃に遭い、その時はまったく対応できなかったのですが、それを体験できたのもとても嬉しかったです」

趣味を仕事に生かせることの幸せ

田中氏は二級建築士の資格を持ち、ピアノやハープの演奏、絵画制作(「二科展」初出展初入選)なども得意とする、多彩な芸術的才能の持ち主だ。それらが自身の仕事に生きていると感じることはあるのだろうか。

「ピアノ演奏や絵画制作は私にとっては趣味なんですよ。私がしている仕事はそれらの趣味を生かせるものなのだとわかり、なんて幸せなんだろうと思うことはありますね。例えば、建築士の資格を生かせる情報番組や、絵画制作に関連する仕事などもやらせていただいていますから。女優やモデルとはまったく異なる分野の趣味・特技にも関わらず、それらを私の長所として認めてもらえる現在の状況は、芸能界に入る前は想像もしていませんでした。それはすごく嬉しいことですし、仕事にもやっぱり身が入ります。だから、芸術関係の趣味に関しては今後も続けていきたいな、と思いますね。女優の仕事に関していうと、ドラマ『後妻業』で演じさせてもらった二級建築士の資格を持っている女性の役はやっぱりすごくやりやすかったですね。建築設計をするようなシーンはありませんでしたが、大学時代の同級生たちの多くは実際に建築士になっているので、役が身近に感じやすいというのは演じるうえで非常に助かりました。以前、『この男は人生最大の過ちです』というドラマで、ノーベル賞候補の研究者の役をやらせていただいたことがあったのですが、そんな人は私の身近にいませんし、演技をしていて楽しくはあったものの、自分の世界からかけ離れすぎていて演じるのに苦労しましたね」

アクション映画への出演に意欲

これまで多くのテレビドラマに出演してきた一方、映画出演の経験はまだない田中氏。高身長でスタイル抜群の同氏だけに、映画館のスクリーンではいっそう映えて輝きを増すに違いない。子どもの頃からアンジェリーナ・ジョリー氏やミラ・ジョボビッチ氏の出演作を見てアクション映画が好きだったという田中氏は、映画出演への興味が大いにあるという。

「映画の仕事はぜひやりたいですし、もし映画デビューできるなら、『キングダム』や『ザ・ファブル』のような漫画原作のアクション系作品に出演してみたいと思っています。最近は漫画原作の映画がよく製作されていますよね。そういった作品ではとっぴなキャラクターも数多く登場するので、そのような役に挑戦してみたいですね。アクション映画への出演が決まったら、そのためにトレーニングもするつもりです。海外の女優さんでは、昔からアンジェリーナ・ジョリーさんやミラ・ジョボビッチさんが好きなのですが、日本の女優さんだと、樹木希林さんや満島ひかりさんに憧れます。お二人とも自分自身をさらけ出して演技をするタイプですから、そういう女優さんに強く引かれますし、また演技を盗みたくもなりますね。お二人のように自分をさらけ出して演技をすることは私にとっては変わらぬ目標であり、また課題でもあります」

 

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