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プロ野球のコーチと違った大学での指導

リーグ最年長野手となった2000年、駒田氏は2000本安打を達成して、名球会に入会。そして同じ年に、20年間の選手生活に終止符を打った。2005年からは横浜など複数の球団でコーチを歴任。プロ野球のみならず、大学や独立リーグの指導者も務めた駒田氏は、自分が教える側になっても、子どもの頃から変わらぬ野球に対する思いは揺るがなかった。

「もちろん僕は野球が大好きですし、野球が好きな若い子たちと一緒に野球で遊んでいられるという意味では非常に楽しかったですね。例えば、プロ野球の球団がなぜキャンプをやるのかについても、選手がバットとボールとグラウンドを提供してもらって、一ヶ月間、野球をして遊んでいなさい、と言われたと思えばいいんです。子どもの頃は、外が暗くなるまで野球で遊んでいましたよね。ところがこれが仕事となると、『もう17時を過ぎている』と、心のタイムカードを押してしまう。『遊びだと思って一ヶ月ずっと野球をやっていたらうまくなる、それがプロなんだよ』と選手たちには伝えていました。学生たちに野球への興味を持たせて、その中で少し厳しいことも経験させるというのも指導者の役割だと思うんですよね。だから、彼らがある程度厳しい環境でもやっていけるように導いてあげなければいけない。そういった点では、大学での指導はプロ野球のコーチとはまったく違う仕事でしたね。それで次第に野球以外の面で選手を指導するケースが増えるようになり、疲れてきたというのが正直なところです。野球で遊んでいられなくなってしまった(笑)」

さまざまなタイプがいるのが良い組織

駒田氏は、2001年に出した著書『プロ野球場外乱闘!』(出版元:角川書店)の第四章「指揮官の器」の中で、組織の論理をわきまえていることや世渡り上手であることを、プロの資質であると考えているサラリーマンのような器の小さな人間は人の上に立つべきではない、と書いている。その考えは今も変わらないのだろうか。

「僕は今でもそう思っています。事務的なことをやれる人たちだけが集まったような組織は絶対によくない。優れた感覚を持ち、それでいてある程度計算に強くて事務的なこともこなせ、そのうえリーダーシップが取れる人ではないと、人の上に立ってはいけないと思います。そうじゃない人がリーダーになるから組織がつぶれてしまうんです。『私はヘッドコーチのままでいいですよ』と自分をわきまえていなければいけないような人に限って、世渡りばかりうまくなるから駄目なんです。僕はプロ野球の解説の仕事をする時に、高度な技術論は他の解説者にお任せして、とても興行に向いたバラエティ色の強い野球というおもしろいスポーツをちょっと分析し、時には感覚的な的外れなことも言いながら、視聴者に楽しんでもらえるように心がけています。細かく分析していく能力は大学の先生にはかなわないが、そのような解説者ばかりだと野球観戦がつまらなくなるよと言いたいですね。理論派がいれば、直感派もいる。そういうのが全部混ざって、良い組織をつくっていかなければならないと思います。僕自身は、ずっと優等生ではなくて異端児でしたから」

無理をせず、楽しくがモットー

選手時代から監督やコーチ、野球評論家と、時代とともに肩書が変わっても、常に「異端児」として野球人生を歩んできた駒田氏。最後に、今後やってみたいことについて聞いてみた。

「僕はずっと一貫して、自分にとって楽しいことをやってきたつもりです。極端なことを言うと、巨人を移籍したのも現役を引退したのも、楽しくなくなったからそうしたんです。だから今後も、何事に関しても楽しければ続けるし、楽しくなかったら辞めてしまおうと思っています。それで、ある時点で『楽しい』という気持ちのまま死ぬことができればいいなと考えているんです。これから先の明確な目標はありませんが、1つ確かに言えるのは、自分に向いていないことは辞めようと思っています。無理をせず、楽しく。あえて言えば、それが僕のモットーですかね」

(取材:2021年1月)
取材 / 文:徳永 隆宏
写真:竹内 洋平

 

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