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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

 

長いスパンで物事を見ることが重要

インタビュー中、終始ユーモアを交えながらひょうひょうと質問に答えてくれた駒田氏。選手時代のメンタルコントロール方法に関しても氏一流のものだった。

「選手時代は、自分をまず楽な状態にすることを第一に考えていました。例えば若い選手には春先にレギュラーを獲得したのに、5月6月くらいになると打てなくなってしまうタイプが多いんです。これは体力的な問題もありますけど、まず気持ちがもたなくなってきます。プロ野球を含め、プロスポーツというのは『さらに稼ぎたい』『もっと有名になりたい』など、自分の欲との戦いなんです。その欲を追求しすぎ、あまりにも自らを追い込んでしまうと、王貞治さんやイチローのような天才プレーヤーは別ですが、普通の選手はギブアップしてしまいます。体力的にも精神的にも。だから、自分をできるだけ楽にしてやらなければならない。僕は常に、どうすれば一年間を乗り切れるのかということを考えながらやっていましたね。当時、プロ野球は年間130試合だったので、6番7番くらいの打順だと、だいたいトータルで500打数くらいです。例えば100打数30安打だと3割ですよね。それ掛ける5セットを淡々とやるわけです。もし100打数32安打だと、2安打の貯金ができる。そうなると、次はもっと気持ちよく、楽な心境で打席に立てるようになります。反対にその時点で2割8分だったら、残りの各タームで31本ずつヒットを打てばいいわけですから、そこで取り戻そうと考えるようにする。それを積み重ねていき、年間150本以上打ったら打率が3割を超えるわけです。その日のことだけではなくて、長いスパンで物事を見て自分をコントロールしていかないと、とてもじゃないけど精神的にもちませんでしたね」

気持ちの切り替えで失敗を乗り越える

「アスリートにとってケガはつきもの」と言われるが、駒田氏には大きなケガによる戦線離脱がほとんどなかった。ケガとの付き合い方に関しても、メンタルコントロール同様、駒田氏の合理的な考え方が生きていた。

「大きなケガをしなかった最大の要因は、親からもらったこの体が強かったためだと思います。腹筋や背筋などをしすぎて椎間板ヘルニアになり、辞めてしまう選手も多かったんですが、僕はいくらやっても大丈夫でした。それから、ケガをしないように気を付けてはいましたね。例えば、全力でプレーした揚げ句フェンスにぶつかり、骨折して3ヶ月間休んだとしてもファンは納得してくれませんよね。もちろん、監督も自分自身も納得しない。だから、見方によっては力を抜いていると思う人もいたかもしれませんが、僕はそんなプレーはしませんでした。ただし、ここは丁寧にやらなければならないという局面では、絶対に手を抜かなかった。先ほどの話に戻りますけど、打率2割9分の選手と3割の選手とでは、年間5安打しか違わないわけですよ。その5安打ぶんに関してはすごく丁寧に扱わなければいけない。したがって、時にはケガしてもいいやと思わざるを得ない場面もある。でも、いつもケガをしてもいいやと思いながらプレーしていては駄目なんです。このことは守備に関しても当てはまります。一塁手に限れば、100回やったら99回は成功する。逆に言えば100回に1回はエラーをするわけですね。その際コーチに怒られたとしても、『確かにコーチの言う通りだよな。でもくよくよするな、絶対にくよくよするなよ。大丈夫、今から99回成功するから』と気持ちを切り替えるようにすればいいのです。僕は試合でエラーをしたからといって、その翌日にあえていつもより早めに練習場に行き、『コーチ、ちょっとノックをしてください』とは言わなかった。だから変わった選手だと思われていたんでしょうね(笑)」

 

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