巻頭企画 天馬空を行く

 

「見る」という大切さ

練習中はじっと選手たちを見つめ、選手たちと一定の距離を保つ。それが今岡監督のスタイルだ。とはいえ、選手に対して何か言いたくなったり、感情を表に出したくなったりする場面は本当にないのだろうか。素朴な疑問を投げかけた。

「もちろんあります。それに、選手に指導していると周りからは仕事しているように映りますしね(笑)。でも、基本的には黙って選手を見守ることが大事なんですよ。一人でいるときと選手同士でいるとき、グラウンドとグラウンドの外など、あらゆる角度から言動を注視していく。指導者が10人いれば、一人の選手に対する評価は十通りあります。正しい答えを導くには、日頃からどれだけ選手を見ているかが重要です。
 例えば、僕がAという選手だけをみっちり教えたとしましょう。そうするとどういうことが起きるか。僕はその日の試合中、Aのことばかりが気になってしまうんです。『俺が教えたから、ちゃんと打ってくれよ』と。そうやって特定の選手をひいき目に見てしまった時点で、監督失格なんです。組織の中での自分の役割を忘れてしまい、全体のマネジメントを怠ったわけですから。もっと言えば、社長室に頻繫に呼ばれる社員がいたら、周りの人はその社員のことが気になりませんか?良くも悪くも注目を集めてしまいますよね。不用意な行動で『あいつは上役のお気に入りだから』となってしまう。こんな見方もできるわけです。
 断っておきますけど、決してスポーツ界の師弟関係を否定しているわけではありません。要するに競技によりけりだということです。ゴルフやマラソンなど個人競技の場合、指導者と選手は師弟関係を築き、それこそ寝食を共にするような一心同体であるべきでしょう。けれど、野球は団体競技です。一つのプロ野球球団には約70人の選手が在籍しています。そこから一軍と二軍に、その中でもレギュラーメンバーと控えメンバーにわかれている。全員が試合に出場できるスポーツではありません。それを意識すれば、自ずと振る舞い方が見えてくるのではないでしょうか」

二軍の改革は寮生活にこそある

勝敗がすべてである一軍に対して、二軍は育成の役割も大きい。辛抱強く選手を起用する場面もあるだろう。そんな二軍の環境を変えていくために、どのような改革に着手していったのかを聞いた。

「当たり前ですけど、どの選手も一軍で活躍できる日を目指し、高いモチベーションで練習に取り組んでいます。野球は全員が全員レギュラーになれるわけではありません。限られた枠の中で、誰を引き上げるのか。それが我々の役割です。チームの一員として必要なのかどうかは、単に数字だけで判断できない面もあります。日常生活での行動や道徳的な部分も含めて、あらゆることを見逃さずにじっくり見る必要があるんです。
 二軍では、多くの若手選手が寮に住み込み、グラウンドと行き来する日々を過ごしています。グラウンドで野球に明け暮れることはもちろん大切です。しかし特に若手選手の場合、技術はあってもプロとしての心構えや、体づくりが発展途上にあります。これらは、睡眠、食事、お風呂など規則正しい生活習慣で身に付くこと。つまり、二軍の環境を整えるためにとても重要なことが寮生活なんです。指導者は選手の技術指導だけでなく、寮生活に至るまで目を配らなければいけません。
 今のロッテはどうしているかと言うと、毎日の食事メニューや日々の身長体重の管理など、各選手の状態を細部まで把握します。具体的に食事面で言えば、休みの日であっても寮で朝昼晩のご飯が出ますし、遠征先のホテルの食事メニューの構成に至るまで、球団側がきちんと管理している。それくらい細かい部分まで取り組んでいるんです。
 本来、改革にわかりやすいものなどないんです。誰も気付かない、あるいは軽視されてしまいがちなこと。先ほど言ったような食事面の管理しかり、あらゆる面に対して選手をケアし、彼らの状態を詳細に把握する。そういう積み重ねが本当の意味での改革だと思います。多くの人にとって関心あるのは『誰々が打った』という結果だけでしょう。『ほとんどの選手の外食は、週に一度のみ』と聞いても、あまり興味が湧かないですよね。おそらく、それがいかに大事かは、中の人間にしかわからないかもしれません。そういう地味な部分をすくい上げて実行したことで、環境を整えるうえでの大事な部分が変わってきています」

井口監督との絆

一軍と二軍の密な連携は、強力なチームづくりに欠かせない。一軍を率いる井口資仁監督と、今岡監督は同じ東都大学リーグ出身で同学年。1996年アトランタオリンピックでは、日本代表として共に戦い、2010~2012年は、ロッテでチームメイトだった。いわば、古くから切磋琢磨してきた仲である。井口監督はロッテの監督就任にあたり、「二軍監督を今岡さんに任せたい」と要望があったという。それだけ、今岡監督に信頼を置いていると言える。

「今のロッテは雰囲気がすごく良いですよ。一軍と二軍が密に連携していて、コーチ陣や裏方スタッフも含め、井口監督の方針がしっかり浸透しています。僕としても、自分の思っていることを言えてやりやすいですね。それができるのも、井口監督が全面的に信用してくれているからです。もちろん、お互いの性格は違います。だけど、井口監督の考え方が僕にはわかるし、井口監督も僕の意図を汲み取ってくれる。そういう信頼関係ができているから、チームの方針がぶれることはないです。僕らが現役時代に良いと思った部分は取り入れつつ、これまでになかった環境づくりを目指す。そのためにこの3年間、一緒にいろんな種を植えて育ててきました。それらがようやく花を咲かせるところまできています」

 

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