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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

 

個人で100億を超える融資を受ける

SNBLの事業として資金を調達して治療センターをつくろうと考えた永田氏。しかし、監査法人からストップがかかる。当時のSNBLは上場したばかり。株主の手前、「簡単に借金はできない」と告げられた。

「監査法人から『やるなら社長個人の責任でやってください』と言われました。でも、センターをつくるには100億円を超えるお金が掛かる。そんな金額、個人ではどうにもならないと思いますよね。しかし、意外にも銀行が貸してくれるというのですよ。ただ、非常に迷いましたね。そんなに簡単に決断できる金額ではない。しかも、100億円以上のお金を投資しても、病院経営の難しさはよく認識していました。
 皆さん、病院経営はお金が儲かると思っているかもしれません。でも、日本の医療制度の下で、病院が利益を出すのは並大抵のことではないです。なぜなら、国が全ての医療費の価格を決めているので、病院側が勝手に決められないからです。100億円も借金をして病院を立ち上げても、債務を返すのがとても大変。だから、非常に迷いました。2005年の4月でした。鹿児島県医師会長が医師会新年度の会を開くから、『その席でやるかやらないかを宣言したほうがいい』と言われました。さすがに前日は眠れませんでしたね。やっぱりやめたほうがいいと思いました。今ならやめられると。
 でも、本当にやりたかったのですね。なぜかと言うと、がん患者を治せるようになることが私の夢だったから。学生時代は外科医になるのもおもしろいなと思っていた。しかし、当時の医学は今と比べるとまだまだ発展途上な部分も多く、ほとんどのがんは不治の病でした。治るのは初期の胃がんくらい。私もがんを治せる医者になりたかったけど、自分には無理だなって思っていました。でも、陽子線治療の施設があれば、自分にもがん治療ができる。結局はその個人的な思いが勝り、最終的には覚悟して取り組もうと賽は投げられたのです」

財務基盤を強固に

多額の融資を受けて、メディポリス指宿構想を実現し、2011年に施設稼働にこぎつけた永田氏。2019年現在、施設でがん治療を受けた患者は3000人を超えた。SNBLも2018年度には黒字化している。今後はどのような事業展開を見据えているのだろうか。

「今後のSNBLとしては重要なのは、まずは後継者へのバトンタッチです。私も60歳を過ぎましたし、役員も年配の人が増えてきたので、会社の将来を担ってくれる次世代に権限を委譲していかなければならない。2010年からは、アメリカの子会社の業務改善を行いながら、翌年にメディポリスも稼働させた。それと同時に、本体のSNBLの会社組織も強化して社内に『SNBLアカデミー』という教育機関や永田塾という社長直轄の研修体制もつくりました。それらが奏功し、2018年にSNBLは黒字になりましたが、そこに至るまでの8年は針の筵のような状況だった。その中でそれぞれの局面に対して、コツコツと適切な対応を続けてこられたからこそ、今があるのだと思います。この8年で財務的に持ち直しはしましたが、ところどころ傷んでいるところもあるので、今後4年ほどかけて財務基盤を強固なものにするように努めます」

苦楽は表裏一体

永田氏は30年前から、弘法大師の名でも知られる真言宗の開祖、空海のことを勉強しているという。そして、その空海の教えが、自身の事業経営や人生の指針となっているそうだ。

「私は、『苦楽は表裏一体』という考え方を持っています。空海の教えによると、苦を乗り越えることによってその人の人格が鍛えられ、いろいろな力を得られます。最初の頃は、そんなの本当かなって思っていました。でも、30年も学び続ける中で、仕事でさまざまな経験もさせてもらって、最終的には自分自身も会社組織も相当強くなっている。役員も誰も辞めずに、ずっと一緒に頑張ってきてくれ、内閣総理大臣賞を頂けるほどに組織が強化された。退職率も本体では3%ほどに収まっている。そう考えると、苦を乗り越えたからこそ今があるのだと実感しますね。
 時間が経ってから後を振り返ると、すごく戦略的な経営をしてきたように見えるかもしれない。でも、正直なところそれは違うのですよ。今の当社と私があるのは、人との出会いのおかげなのです。誰かと出会って、何か頼み事をされる。そうすると私はお人好しのようで、『いいですよ』と手伝う。それでいろいろと手を広げて苦しむことになるのですけど(笑)。しかし苦しむ時期というのは、自身が成長するタイミングであり、チャンスでもあります。それを正面から受け止めてきたから、今がある。人脈も広がった。これからも苦しみを避けるのではなく、そこから得られる楽のために、事業にまい進していきます」

(取材:2019年4月)

 

株式会社 新日本科学
所在地 [東京本社]〒104-0044
東京都中央区明石町8-1 聖路加タワー28F
創業 1957年
資本金 96億7907万400円
URL https://www.snbl.co.jp/
一般社団法人 メディポリス医学研究所
メディポリス国際陽子線治療センター
所在地 〒891-0304 鹿児島県指宿市東方4423
URL http://medipolis-ptrc.org/

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