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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

体験を共有してくれるロボット

同氏の開発するロボットは、スマートフォンの延長線上にあるデバイスらしい。これまで、ガラパゴス携帯とスマートフォンを両方持っていた人が、次第に後者だけで事足りるようになったのと同様に、スマートフォンとロボットの2台所有から、ロボットだけを所持する時代が来るのだろうか。

「それを実現するのが目標です。現在のスマホは情報を与えてくれるだけで、話し相手にはなってくれません。AIによる音声認識機能があるとはいえ、ユーザーからはさほど利用されていませんよね。なぜなら、スマホと会話をしていても、相手は単なるツールであって、愛着や信頼のようなものを感じないからだと思います。では、人型のロボットに対してはどうでしょうか。ロボットに『あのラーメン屋さんは気に入ると思うよ』と言ってもらえたら、食べてみようかなと素直に思えるのではないでしょうか。コミュニケーションロボットの理想形は水木しげるさんの漫画、『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくる目玉おやじです。小さな物知りが主人公に知恵や情報を与えてくれる設定は、童話から現代のアニメまで、数多くあります。それが、コミュニケーションロボットの理想的な姿であり、スマホの延長にあるものです。
 ロボットを携帯して、旅行に出かけたとしましょう。その地でどんなものを食べたか、どんな景色を見たか、ロボットは写真や動画を撮影できますし、それを保存していつでもスライドショーで見せてくれます。つまり、体験を共有してくれるわけです。
 一人旅には気楽さがある反面、寂しさもありますよね。海岸で見た夕日がきれいだったとしても、その感動を共有できる人が隣にいないことを、寂しく思うかもしれません。今だったらみんな、SNSを利用して誰かに共感を求めようとするでしょう。そのときに、胸ポケットに入れている小さなロボットがたった一言、その場で『きれいだね』と言ってくれたら。そういうちょっとした心の隙間を埋めてくれる可能性が、ロボットにはあると思います。
 ロボットは技術によってつくられます。その技術によるものが、人間の合理的ではない感情の部分に、どうやって入り込めるのか。そしてその先の日常生活の中に、どのような形で溶け込めるのか。そこに興味を感じています。人間の感情は繊細なので、ちょっとしたことで、ものすごく感情移入できたかと思えば、ささいなことで興ざめしてしまう。そんな人間の感情の機微を埋められるロボットをつくるには、ロボットと共に暮らし、その中で新しい課題を抽出していく必要があります。つまり、日常的に使用されてこそ、ロボットの新たな用途が発見されていくのです」

面倒だから工夫を施し、進歩につながる

ロボット分野でさまざまな驚きをもたらしてきた高橋氏の原動力は、子どもの頃から変わることのない、「好きなこと、やりたいことをやる」というシンプルなものだ。

「何か未知のものをつくり上げる瞬間が一番楽しい。もちろん、その過程で困難なことは起こります。小さなロボットの部品の精密加工なんて、とても煩雑な作業です。でも、面倒くさいと思わないと人間は工夫をしません。つまり、面倒だから工夫をして新しい技術を生み出す。それによって進歩するのです。だから根気がいる作業ですが、人並みに面倒くさいと感じることも必要だと思いますね」

ギリギリを見極める力が大事

興味があるものや、興味があるけれどもまだ世の中にないものを、自分の手でつくって所有したい。できるかどうかは分からないし、うまくいくかどうかも分からないが、「だからこそ試す価値がある」と同氏は言う。自分の技術レベルと集められる素材の中で、つくりたいものは開発可能か。やってみないと結果が分からないものに対しては、それらを見積もった上で挑戦するのだ。

「新しいものを創造するには、“見積もり力”が必要だと思います。例えば、予算が足りなくてできない、納期が短くてできない・・・などとできない理由ばかり考えたら、クリエイティブな仕事はできません。かと言って、本当に実現できないことに挑戦して途中で破綻してしまうのも、困りますよね。どこまでならセーフで、どこからはアウトなのか。そのギリギリの線で仕事を進められるのが、イノベーターなのかもしれません。ジェフ・ベゾス氏もイーロン・マスク氏も、常に際どい勝負を続けていますよね。
 ゆとりを持って、手堅く完成できるようなものに進歩はない。もっと瀬戸際の、ギリギリの部分に進歩があるし、何よりそのほうが楽しい。クリエイティブな仕事で優れた結果を出す人は、創造するための困難に対し、常にアドレナリンが出ています。スタントマンや格闘家と一緒で、リスク承知の勝負に勝つ、一種の中毒みたいなもの。私もより困難な目標に挑み続けていきたいですね」

(取材:2018年9月)

 

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