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巻頭企画天馬空を行く

ロボットクリエーターとして始動

第一志望の企業から内定を得られなかった同氏は、京都大学工学部に入学する。初めてロボットを開発したのが、この頃のことだ。

「最初は、プラモデルのロボットを歩かせることができないかと考えたのがきっかけです。それで、アニメの『機動戦士ガンダム』に登場するロボット『ザク』のプラモデルを購入して、モーターや歯車を中に組み込んで二足歩行できるように改造し、リモコン操縦で前後進や左右旋回するようにしたのです。
 全くの趣味で始めたことでしたが、思った以上にうまく動いたので、大学の特許相談室に持ち込んだところ、特許出願し、企業から商品化されることになりました。もともと、自分で操縦して楽しむためにつくったのに、何だか事業のようになってきたんです」

「事業を立ち上げることになるなんて、思ってもいませんでした」と語る同氏。では、どうして起業することになったのだろうか。

「当時は、ロボットを開発している会社で働こうと思っていたんです。そこで就職のためのアピールとして、ロボットを開発して展示会で披露しました。ただ、大学に2度通っている分、同期よりかなり年上。『このまま新卒として就職すると、私だけ先に定年退職が訪れる』と思い、これまで通りに自分のつくりたいロボットをつくり続けるには、起業したほうがいいのではないかという思いが芽生えてきました。
 それなら、一度外れたレールから元に戻ろうとはせず、そのままいくのもいいかなと。仮に起業してうまくいかなかったら、改めて中途採用で会社に入ればいいと思っていて。一念発起してチャレンジするというよりは、成り行きでそうなったんです。不安や悲壮感はなく、何とかなるかなという心境でしたね」

仕事でも、つくりたいものをつくる

卒業後は京都大学のインキュベーション施設に、ベンチャー企業「ロボ・ガレージ」として入居。これが現在の(株)ロボ・ガレージのスタートだった。

「会社として活動することになっても、つくりたいものしかつくっていませんから、学生時代とやっていることは変わっていないです。オーダーがあるからつくるのではなく、自分がつくりたいと思うロボットをつくって、記者発表や展示会などで披露する。要は先出しです。オーダーをくれる企業さんは、すでに私のロボットをどこかで目にしていて、そのコンセプトを知ってから話を持ってくる。つまり、私の作品に共感してくれた人からしか仕事はこないんです。
 依頼があった場合も、『こういうロボットでいこうと思います』と遠慮せずに提案します。私はその企業には所属しない外部の人間だから、経営者とも若手社員とも、上下関係なしに対等な目線で意見を交わせるのです。
 一方、企業内の人たちにとっても、上司への説明の際に、私をうまく使ってもらうようにしています。『高橋が言うから仕方ない。うまくいかなかったら高橋の責任だ』と言える。すると、企業内の人だけだと『自分の担当する工程で失敗をしたくない』と考えて、躊躇しがちなところを、私がいることで、リスクを冒してチャレンジできるようになります。だから、コンセプトがブレることなくプロジェクトが進められるんです」

ロボット分野の課題

日本は高度成長期から、製造業を中心にものづくりに優れた国だと言われてきた。そんな日本は、世界のロボット分野でも先端をいっているのだろうか。

「このままだと、日本のロボット技術が世界の先端を走り続けるのは難しいのではないかと思っています。少なくとも、私の携わっているコミュニケーションロボットの分野ではまだ先端にいると言えますが、将来的に日本から世界に広がるような大きな市場をつくることは難しいと感じますね。日本のものづくりの技術は今でも優れていると思いますが、中国の技術も向上し続けています。
 ものづくりというのは、つくれば終わりではないんです。たとえ高品質な製品でも、そのコストを回収するスキームがつくれないと、これからの時代の競争には勝てないでしょう。
 例えば、原価を抑えた製品をつくって、それを消費者に販売して、その差益で儲けを得る――このような、製品・消費者・生産者の関係だけでビジネスを考える旧態依然としたスタイルからは、脱却する必要があるでしょうね。すでにスマホゲームやスマートスピーカーなどで行われているように、製品自体は無料や格安で配布して、サービスの中でコストを回収する、といった仕組みが必要だと思います。
 これは技術的な課題というよりは、ロボットを1つの情報端末として、エコシステムの中にどのように組み込んでいくかという、ビジネス上の戦略。ですから、クリエイターやベンチャー企業の力だけでできることではありません。例えばGoogleのような、世界規模の情報や顧客を抱える企業との連携が必要です。それをどう実現するかがロボット分野の課題ですね」

ロボットを新たなインターフェースに

Googleのように膨大な情報ネットワークを所有している大企業は、世界規模でも数えるほどしかない。そうしたリソースを持つ企業と関わらなければならない理由はどこにあるのか。

「ユーザーと、コミュニケーションロボットとの対話の質をより高めていくには、ロボットという端末に、巨大な情報インフラをつなぐ必要があるからです。例えば、ロボホンは最新の気象情報にアクセスして天気予報を教えてくれます。レストラン検索では、グルメサイトから飲食店の情報を探してきます。こうした多種多様な情報サービスやコンテンツを、大量に確保していることが重要なんです。
 広大な情報ネットワークを活用すれば、全方位的なサービス提供が可能になります。さらに、ユーザー個人が必要とする情報をロボホンがパーソナライズした上で提供することができる。既存のスマートフォン向けのサービスをロボット向けにアレンジして活用していくことになるでしょう」

 

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