真の革新を成し遂げるために
重要なのは個性と発想力
価格は庶民的。オペレーションについても日進月歩で改善されている事実。サービスの拡張と愉しさの約束。そして安全性についての徹底。こうした事実を並べるだけでもLCCへの期待は自然に高まるばかりだ。だが、ここまでは旧態依然とした航空業界に風穴を空けることにつながっても、革新的だとはまだ言えず、業界の壁を壊すことまではつながっていない。大事なのはここからだ、と鈴木氏は語る。
「ジェットスター・ジャパンは新しい文化を創っていくことこそが役割だと考えています。空の旅がより多くの人に親しまれるための文化。その文化を創るのはもちろん人ですよね。弊社の採用は、基本的にパーソナリティ重視です。もちろん初期の段階では経験者を優遇せざるを得ませんでしたが、今後は社内にキャリアスクールを設置して人材を育てることにも尽力していくつもりですから、採用の基準は初期とは大きく異なってきます。弊社の採用で重要視するのは『一歩先に踏み込んで何かを成し遂げようとする人材』です。彼らが発想し、弊社が採用し、浸透していくものこそ文化の種になってくれるはずです。だからこそ、これから最も重要になるのは、全スタッフのパーソナリティ開発と育成なんですね」
2012年のハロウィンで、鈴木氏はスタッフにこんな指令を出した。「ひとり500円の予算を渡します。皆でおもしろいハロウィンのサービスを自由に考えてください」。ある者は100円ショップで小物を買って飾りつけをしたり、ある者は布地を買って衣装を作ったり、あるグループは集めた予算でポラロイドカメラを買って写真撮影&プレゼントをするなど、思い思いの発想を繰り出した。これは会社が指示していることではない。鈴木氏はあくまで「自由にやって」と言っただけだ。こうした集団による自然発生的なサービスが今後どれだけ増えてくるかによって、LCCのサービスの幅は広がってくる。「つまり、LCCがどれだけ大きな成功を手にできるかどうかの鍵は、最終的にはスタッフの個性にかかっているんですよ」と鈴木氏。そうしたアイデアを、一般社員たちと非公式なランチをともにしながら聞くのが楽しみで仕方がないという。
「もちろんアイデアの中には実行できるものとできないものがあります。玉石混淆ですから、割り切った考えも必要です。しかし、私が集めたアイデアを毎週ウィークリーメッセージにして配信すると、また異なる提案も上がってくる。経営陣として素晴らしいと思うのは、ただ会社に『こうしてほしい、ああしてほしい』と要求するのではなく『こうするともっとよくなる、もっとお客様のためにコストカットできる』などのマインドセットができていることです。このサイクルは大事にしたいですね」
今、ジェットスター・ジャパン(株)は「日本ナンバーワンLCCとしての地位を不動のものにする」というミッションに向けて動いている。現在7機体制である飛行機も2014年までには24機体制にするという明確なビジョンを掲げている。この加速度は驚異的と言えるほどだ。「路線の数を増やすことによって、電車やバスと同じような感覚でお客様が飛行機を利用できるよう、価値観の転換にフォーカスしていく。そこに向けて真摯に進んでいるだけです」と鈴木氏は最後に言葉を締めた。同社は国内市場を盤石にした後、マーケットシェアを短期間でアジア地域に拡大することも見越した展開を図っているが、なるほど夢物語ではなさそうだ。
(取材 / 2012年12月)
ジェットスター・ジャパン 株式会社
本社所在地 | 千葉県成田市 |
URL | http://www.jetstar.com |
設立 | 2011年9月5日 |
資本 | 120億円 |
株主 | 豪カンタスグループ (33.3%)、日本航空 株式会社 (33.3%)、 三菱商事 株式会社 (16.7%) 東京センチュリーリース 株式会社(16.7%) |