巻頭企画 天馬空を行く

 

苦境をきっかけに「本気」を呼び起こす


自然体でのMCのスタイルと情熱を持って伝える姿勢が、視聴者の心を掴んでいった。そして2010年度には、売上高は1759億円を達成し、過去最高の数字を記録した。地上デジタル放送への完全移行と、家電エコポイント制度により、地上デジタル放送対応のテレビの売上が大きく伸びたのである。しかし、それから程なくして、「ジャパネットたかた」は苦境に立たされることとなった。

「当然、地デジやエコポイントの特需が終わった後のことは、社内でも話し合っていました。しかし、2011年下半期以降、予想よりもはるかに大きく売上が落ち込んだのです。そして、しばらくは売上が回復せず、2012年度の売上は1170億円にまで落ち込みました。2010年度から600億円も減ったわけです。
 そのような状況になれば、普通は『倒産してしまう』と慌てると思いますが、私は全く不安を感じなかったんです。その時も『大丈夫』と信じて、売上を回復させるために『攻め』の姿勢を取ることにしました。まず、売上が落ち込んでいた2012年に、数十億円もの投資をして東京の六本木にオフィスとスタジオを建設しました。取引先が足を運びやすい拠点をつくることで、新商品の商談など、時代の変化に対応するスピードをさらに高めることができますし、東京の人口を踏まえると優秀な人材も多く確保することができると考えました。それからもう1つ──『2013年度に、2010年度の過去最高益である136億円を更新しなければ、社長を退任する』と、社内外に宣言したのです。創業以来、目の前のことに全力で取り組むという信念から、一度も明確な目標を掲げてこなかった私が、初めて設定した数値目標でした」

社長退任の発表は、社内に激震を走らせ、メディアでも大きく取り上げられて世間の注目を集めた。2012年度は73億円の利益だったため、過去最高益を更新するためにはその2倍近くの数字を出さなければならない。相当に高いハードルを設定した背景には、「社員の本気度を高めたい」という髙田氏の思いがあった。

「それまでも社員たちは皆、本気で頑張ってくれていました。でも、本気中の本気を出してほしいと思ったんです。そうでなければ、100年続く企業にはなれません。私が引っ張るのではなく、社員全員で会社を継続していくために、会社の体質そのものを変える必要があると感じていました。
 すると、私の発表を受けて、実際に社員たちの気持ちが切り替わったのです。長崎と東京で競争意識も芽生えましたし、何より『お客様に本当に喜んで頂ける提案をしよう』と、1つの商品を1日中破格で販売する『チャレンジデー』をはじめ、数々のアイデアが社員たちから挙がってきたのです。そして最終的に、過去最高益を大きく上回り、154億円の利益を達成しました。みんなが私を『辞めさせたくない』と思って、気持ちと情熱をもって結果を出してくれたんです。あの時は、心の底から感動しました」

企業存続のために退任を決断

危機的な状況を社員たちの「本気」で乗り越え、無事に社長退任を免れた髙田氏。それにもかかわらず、実はこの経験から、髙田氏は引退の決意を固めたという。それは、「100年企業をつくり、社会に貢献し続けたい」という思いから。70代、80代になっても社長の座を譲らないのではなく、自身が元気なうちに退くことで、後任にアドバイスをするなど、会社をさらに成長させられると考えたのである。実際に髙田氏は、2015年1月で潔く社長を退任した。会長職に就いて会社に残ることもしなかった。

「退任後1年間は、テレビショッピングのMCを続けて番組の制作指導を行いました。スタッフたちに、私がこれまでに考えて実践してきたことを引き継ぐための時間でした。そして2016年1月、私は最後の番組出演を終えたのです」

そんな髙田氏に、「ジャパネットたかた」時代の中で挫折を感じた時のことを尋ねてみると、驚くほどポジティブな答えが返ってきた。

「これまでの人生の中で、『挫折』は本当に1回もなかったんですよ。失敗することはありました。でも、それは全て『試練』だととらえていて。失敗があるから、それを改善することで自己をさらに更新できます。そう考えると、自ずとエネルギーが湧いてくるんですよ。
 そして、私はとにかく『今を生きる』ことを大切にしてきました。今、自分がやっていることに全身全霊で向き合い、200、300パーセントの力を注ぎ続けてきたのです。体力的に大変な時もありますが、それこそエネルギーや情熱があるから乗り切れました。なぜそれを持ち続けられるのかというと、『情熱を保つこと』が習慣化しているからでしょうね。振り返ってみると、カメラ店時代から今に至るまで、暇な日は本当に1日もなかったと思います。でも、その時その時で目の前のことに夢中になって取り組んでいましたから、ずっと楽しかったんですよ」

サッカークラブ再建という使命を抱いて

髙田氏は社長職を離れてから(株)A and Liveを設立し、テレビやイベントに出演する他、著書の出版や講演活動などに勤しんでいたという。しかし、2017年4月から、思いもよらぬ新たな挑戦がスタートした。それは、長崎にあるJリーグのサッカークラブ「V・ファーレン長崎」の経営再建という大仕事だった。

「ジャパネットグループは2009年からV・ファーレン長崎のスポンサーで、私自身もよく応援に行っていました。しかし、2017年にクラブが存続危機に陥るほどの経営状態であることが判明したんです。累積損失は3億円以上で、社員への給与も支払えなくなるかもしれないほど、ずさんな経営でした。そこで、息子であるジャパネットの現社長と相談し、長崎への恩返しを込めて支援を表明し、V・ファーレンを完全子会社化することにしたのです。その際、私が『経営を建て直す』というミッションをもって社長に就任しました。収益構造を正して経営を安定させたら社長職を離れるつもりですが、短期間でも私なりにチームを応援したいと思ったのです。
 実際に社長に就くにあたって、いろいろな人に心配されましたよ。『全く違う業界での挑戦は大丈夫なのか』と。でも、もちろん『大丈夫』と答えていました。会社もサッカークラブも、組織という根本は一緒ですから。ジャパネットの社員が本気を出して会社を変えたように、V・ファーレンもみんなの気の持ちようで変わるに違いないと確信していました」

その言葉通り、チームはその後、劇的な変化を遂げた。経営を一つひとつ見直し、クラブ内の環境改善を図ったことで、選手や監督、コーチが本来の仕事であるサッカーに集中できるようになったのだ。そして、確実に調子を上げていったチームはJ2最終節を前に2位を確定させ、念願のJ1自動昇格を勝ち取った。シーズン開幕当初は企業倒産の危機にあったとは思えないほどの大躍進だ。

「J1昇格は、選手や監督、私たちも含めたスタッフ、そして長崎県民の皆さんの思いが1つにまとまったことの結果だと思っています。2018年の新年の挨拶では、選手たちにこのように伝えました。『J1になった時点で、あなたたちにはJ1で通用するだけの力がある』。J2時代に、気持ちを変化させていく中で、一人ひとりがJ1レベルの力を着実に蓄えていたということです。だから、『J1に残ること』ではなく、今度は『J1で順位をどこまで上げていくか』ということを考えてほしいのです。そのためにも、一日一生という言葉があるように、一戦一生の想いでぶつかる。何連勝とか、1年後とか先のことを意識するのではなく、まず目の前の試合に勝って、それを積み重ねていくことで、見えてくるものがあると思っています」

また、経営再建に関してもまだまだ課題は山積しているという。

「倒産寸前というマイナスのスタートを切ったわけですから、課題は多いですよ。例えば、駐車場の確保や試合時の渋滞の解消、バスなどの交通手段の改善など、スタジアムへのアクセス1つ取ってもさまざまな問題があります。でも、そういう細かいところから正していかないと、クラブは再生しません。『着眼大局、着手小局』──大きな目で全体を見ながら、小さなことから行動に移していくことが大切なのです。物事を達成するためには、それに向けて線を描き、その線の上に乗せるように点を打っていく必要があるということ。点だけひたすら打っても、線が描かれていなければ絶対に夢は実現しませんからね。私はそのようにして、問題を解決しているんです」

夢を抱き、挑戦するから生きていける

2018年3月時点で69歳である髙田氏だが、次々と新たな挑戦を続けていく姿からは並々ならぬバイタリティーを感じる。それだけのパワーを保つ秘訣は、髙田氏自身の考え方にあるようだ。

「私は、あと48年生きるんです。すると、117歳ですよね。男性の現在の長寿ギネス記録は116歳だそうですから、ギネスを超えようと思っています。つまり、今サッカーに夢中になって数年後に社長を退任しても、まだあと40数年あるという計算になります。そうしたら人生まだまだこれからですから、次は何をしようかな、と考えるわけです。こんなことを言うと笑われてしまいそうですが、これも1つの気の持ちようですよ」

最後に、髙田氏に「挑戦する人」へ向けてメッセージを頂いた。

「挑戦は死ぬまで続きます。何かを実現するために人は挑戦するもの。それは具体的な目標ではなく、『誰かのために』・・・例えば、家族や大切な人のために頑張ろう、というものでもいいんです。そうやって目指すものがないと人は頑張れませんし、生きていけませんから、その意味で死ぬまで挑戦なのです。これは企業に置き換えても同じですよ。『何のためにやっているか』というミッションがあって初めて、企業は存続できます。利益はその結果でしかありません。
 石を積む人、教会をつくる人、といった有名な寓話があるでしょう。同じ仕事をしている人が『ただ石を積むだけのつまらない仕事をしている』と考えるのか、『素晴らしい教会をつくるために石を積んで、自分も貢献している』と考えるのか。その捉え方次第で、自分のやっている仕事や活動の魅力は大きく変わります。だから、夢を持ち続けることが大事なんです。私自身も、何歳になっても夢を持ち、今を生き続けます。そうして、日々精進していきますよ」

(取材:2018年1月)

 

株式会社 A and Live
所在地   〒857-1151 長崎県佐世保市日宇町2781
株式会社 ジャパネットたかた内
設立   2015年1月15日
資本金  8千万円
URL http://www.aandlive.com/
株式会社 V・ファーレン長崎
クラブ所在地   〒859-0401 長崎県諫早市多良見町化屋1808-1
設立   2006年6月28日
URL http://www.v-varen.com/

 

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