巻頭企画 天馬空を行く

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「今」「ここ」を感じて書を生み出す

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岡西さんが書を「修行」だと捉えるようになったことには、明確なきっかけがある。それは、2012年に体験したという禅の修行だ。

「現代社会は、パソコンや携帯が当たり前に普及して、常に大量の情報が流れていますよね。すると、何をしていても新しい情報が入ってくるので、昨日したことや食べたものすら思い出せないことがあります。こうした状況の中で、自分の行動や心をきちんと見つめながら生きることって、すごく難しいな、とずっと感じていたんです。
 そうしたときに、修行僧の方々が修行を通じて『今』を生きることを大切にしていると知り、とても興味を持ちました。それで、自分も修行を受けてみようと思い、せっかくならできるだけ厳しいところに行こうと、禅宗である曹洞宗の大本山、永平寺に修行体験を申し込んだんです。1週間に満たないほどの期間でしたが、修行は本当に厳しくて・・・。毎朝3時に起きて、休憩時間もほとんどない中、ひたすら座禅を組む日々でした」

ところが、過酷な修行は岡西さんにさまざまな気付きをもたらしたという。

「修行僧の方々と共に修行をするうちに、『今・ここに生きる』ということを真に理解でき、その重要性を知ることができたんです。
 そしてお寺を出た瞬間、第六感を含め、全身の感覚が研ぎ澄まされていることにも気が付きました。例えば、軽く机を叩くようなちょっとした物音が、すごく大きく聞こえて。この精神状態や感覚を忘れたくないな、と強く思ったので、永平寺での修行以来、書道には座禅を組んでから臨むようにしています。
 実際に書を書いているときは、その一瞬一瞬に100%の集中を注いでいるわけですが、それを書き始める前の段階から、集中力を極限まで高めておけるように心掛けているんです」

忙しい人にこそ、心の余裕を

岡西さんのように、昨今の日本で「今を大切に生きること」を実践できている人は決して多くないだろう。実際、岡西さん自身も仕事を通じて経営者をはじめとするビジネスマンに会うことも多いが、誰もがせわしなく生きているように見えるのだという。

「皆さんがもっとリラックスできる時間を持てるようになればいいのに、と思いますね。時間に追われている方って、呼吸がうまくできていないことが多いんです。一方で書道の場合は、きちんと呼吸ができないと書くことができません。筆を置いたり払ったりするその一つひとつの動作に、吸って、吐く、という呼吸が伴うからです。また、墨の香りは心を癒やしますし、墨には邪気を払う力があるとも言われています。その意味では、毎日息つく暇もないという方ほど、書道を始めてみることをお勧めします。もちろん座禅も頭の中がすっと整理される感覚を味わえるので、効果的だと思いますよ。
 いずれにせよ、1人でも多くの方が、そうしたゆとりのある時間を持てるようになるといいな、と思っています。そうすれば、生活にも仕事にも余裕が生まれて、きっと好循環につながると思いますから。『今』『ここ』を大事に生きる方が増えていってほしいですね」

自分の中に走った稲妻を信じて

自己、そして今と対峙することができる書道。一方で、書道には「対人」の要素も含まれている。岡西さんが書を通じて人に伝えたい思いとは、どういったものなのだろうか。

「シンプルに、人に喜んで頂きたい、という思いが強くあります。言葉1つで、人を悲しませることも喜ばせることもできますが、私は常に後者の存在でありたいんです。そして、作品を日本のみならず、海外でも積極的に発表していくことで、日本の伝統文化を広めていくとともに、それを見て喜んでくださる方をさらに増やしていきたいと思っています。日本よりも海外のほうがアート市場は大きいですから、そこで日本の書をしっかりアピールできるように、挑戦を続けていくつもりです」

人の心を動かす作品をつくり続けていきたい、と笑顔で話す岡西さん。では、さらにその先に、究極の目標として描く思いとは?

「とても大きな規模の話になりますが、言葉と書道が持つ力で、世界を今よりも平和にできたらと思っています。人を喜ばせる書──国ごとに翻訳されるものでも、英語で書くものでも構わないのですが、人の心にいい影響を与えられる作品をつくりたくて。それを世界中に伝えていくことで、人と争うような負の感情が少しでも軽減していったらと、心から願っているんです。
 とはいえ、私自身がまだまだ書家としては駆け出しの身。いつか最終目標を達成できる日が来るように、これからも精進していきます」

最後に、書家として歩んできた半生を振り返って頂いた。

「女優の仕事も大好きでしたが、やっぱり書道ができていることが幸せです。演じることを辞めて、再び筆を手にしたとき、しっくり来るものがあって…この先も一生、書道を続けていきたいと心から思います。22歳のときに雷に打たれた感覚が、今でもずっと、私の中に残っていますから」

(取材:2017年4月)

 

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