巻頭企画 天馬空を行く

 

今の楽しさを未来に繋ぐ

現代人はとかく「忙しい」と口にしがちだ。しかし、「今」が一番楽しくて大切だと話す武田さんの中には、「忙しい」という概念そのものが存在しない。

20160101_tenma_ex02「楽しい時間があっという間に過ぎるのと同じように、あらゆることに夢中になっていれば『忙しい』なんて思うことはありません。『忙しい』と感じる人は、どこか嫌々やっていたり、焦ったりしているのかもしれないですね。『心』が『亡』くなると書いて『忙しい』。その逆に、たとえ時間に追われていても焦らず、一つひとつ肩の力を抜いて丁寧にやっていくほうが、創作活動に限らず仕事でも勉強でも、結果としていい流れが生まれるんじゃないかなと思います」

ビジネスの世界において、時間の流れはなおのことシビアだ。武田さんは、世の企業経営者に対してどんなことを思うのだろう。

「今は情報の伝達スピードが早いせいか、未来志向が加速している気がしますし、経営者の方やビジネスマンの方は特にその傾向が強いかもしれませんね。『仕事以外のことを我慢して、犠牲にしてでも、将来に成功を勝ち取りたい』というように、何かに向かうために今を蔑ろにしてしまう人も多い。決して未来を考えること自体を否定するつもりはないのですが、大前提として今をもっと大切にして、そのうえで今と未来をシンクロさせながら先のことを考えていく作業が必要だと思うんです。
 だって人の記憶や意識なんて不確かで、昨日食べたもののことすら覚えていない人は多いじゃないですか。それくらい、僕たちの中で時間はものすごい勢いで流れていくのに、未来のことばかり考えて今を犠牲にしてしまっては、虚しさが増えるばかりです。それで仮に成功を掴んだとしても、達成感はあるかもしれないですが、決して幸福だったとは言えないですよね。しかも、我慢を続けるやり方は長続きしないです」

“今”との向き合い方が人生の幸福度に差をつける。さらにその影響は、仕事の成果にも通じるという。

「自分の楽しみを全部捨てて、休日返上で仕事をして・・・そんな風に毎日を過ごしていれば、当然仕事も楽しくなくなってくる。でも、楽しくない仕事をしている人が、仕事でいい結果を残せるとは考えづらいですよね。だから5年、10年先の業績のことばかりを考えるのではなく、まずは目の前の仕事や取引先、社員との関係を丁寧に考えて楽しんでみるほうが、幸せが引き寄せられてくるのではないでしょうか。それで皆が楽しいと思えるような仕事を続けていけば、組織としての根っこも太く強くなり、結果的に大きく成長できるような気がします。もちろん幸せな今の延長線上にある未来なわけですから、そこには犠牲や虚しさを伴うこともありませんよね。
 こういうことを話すと『仕事も人生も、そんなに甘くない』って言われちゃうんですけど、僕は実際にこの甘い生き方でうまくいっているんです(笑)。仕事はもちろん、家族との時間や自分の時間も全ていい感情で過ごそうとしてきたことで、書き手として、人により多くの感動を伝えられるようになれたのだと思っています。だから1人でも多くの人に、このリラックスしていて楽しく、しかも幸せな人生の歩き方を試してみてほしいですね。そうすれば全人類がもっとラクになれると、僕は本気で思っています」

いい波に乗る人生を

武田さんのポジティブさは、一般に言う逆境を“前向き”にとらえるような思考とは全く性格が異なっている。そもそも前や後ろ、過去や未来というベクトルで物事をとらえていないのだ。“双雲流”とも言うべきその柔軟な感性があるからこそ、既存の書道家の枠組みを軽々と飛び越えてこられたのかもしれない。しかし、そのチャレンジングな姿勢について話題を振ると、意外な答えが返ってきた。

「自分の中ではチャレンジをしている、という感覚は全くないんですよ。今手がけている個人や企業からの依頼、メディア出演、執筆、講演といった社会に発信するような仕事は全て、依頼を頂いたからやれていること。それによって皆が喜んでくれるならぜひやりたい、というスタンスです。目の前の仕事を熱心に楽しむことで幸福度が増したのですが、その幸福が自然と連鎖してきたことで、ここまでやってこられたのだと思いますね。
 元来、僕は気が小さいので、リスクを負ってでも冒険したり、人に批判されてでも物事を推し進めたりできる人間ではありません。よくイノベーターだと言われるんですけど、とんでもない。ただ、人が笑顔になってくれることだけを純粋に追求していきたいだけなんですよ。もちろん『書道』自体は、精神をリラックスさせて人類がラクになるためには非常に有効なツールの1つなので、もっと盛り上がってくれたらいいなとも思います。そのことに、自分が少しでも貢献できたら嬉しいですしね。だから、そのうちまた自分が予想もしなかったような面白いオファーが舞い込んできたら、ぜひやってみたいと思っています。そうして、これからも『いい波が来たら乗る』──そんな『超安定人生』を楽しみ続けていきたいですね(笑)」

(取材:2015年11月)

20160101_tenma_ex03

1 2 3


amazonからのご注文
2019年11月号
COMPANYTANK 2019年11月号

巻頭企画「天馬空を行く」には、第25代WBCスーパーバンタム級チャンピオンの西岡利晃さんがご登場!世界王者の栄冠を掴むまでの足跡を辿ります。

定期購読のご案内
 
LINE@無料会員登録はこちらから

LINE@無料会員登録はこちらから

interviewer's eye

カンパニータンクのインタビュアとして活躍されている各界の著名人たちに本誌編集局が逆インタビュー。

杉田 かおる 名高達男 時東ぁみ 矢部 みほ 鶴久 政治 宮地 真緒 水野 裕子 畑山隆則