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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

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人との“調和”が前提の作品づくり

もともと人を喜ばせることが好きだったという武田さんに「書」というツールが加わり、そのパワーは勢いよく膨張し始めた。このことを、武田さんは独特の言葉で表現する。

「これは、僕の考えるエネルギーの法則からいうと当たり前なこと。僕のエネルギーと相手のエネルギーが最高潮のパフォーマンスに達したとき、つまり人と最もいいところで調和できているとき、出会いも運もお金も何だって自然に引き寄せられるものなんです。漫然と『お金がほしい』と思っている人のところに、お金は入ってきませんよね。それはミットをぎゅっと閉じたまま『ボールをください』と言っているのと同じ。まず手を開かないと受け止められないですし、こちらからボールを投げないと返ってもきません。だから僕は作品を書くとき、読めなくなるほどに書き崩したりはしないんですよ。遊び心たっぷりで書くときもあるけれど、自分だけ楽しくても意味がない。皆が読めて、楽しめる書でないと調和できないですからね。
 また作品を通じ、人のエネルギーを高めるのがアーティストのミッションだと思っています。だから僕自身もエネルギー値が高くなる生き方を徹底している。そのコツは、『子どもみたいに生きる』ということ。子どもって無邪気で、常に好奇心がいっぱいだし、感受性が豊かで活動的なエネルギーに溢れているじゃないですか。それでいて、大人のように成功や失敗という概念にとらわれず、周囲からの評価も気にしない。僕もそれに倣い、子どもが遊びに夢中になるのと同じように書道を心から楽しんでいます。
 その意味で、書道は今でも『趣味』だと言い切れるんです。義務感もなければ『頑張らないと』という気持ちも全くないですからね。そんな風に執着が一切ないので、極端な話、書道家を辞めようと思えばいつでも辞められると思います」

では、武田さんは書道に対し、どのような感覚で向き合っているのだろうか。

「とにかく一筆一筆に集中しているので、特別に何かを考えているわけではありません。字の流れを意識して、筆の動きや墨のにじみ方、香りに夢中になって、自分の腕の筋肉と脳内のイメージが一つひとつ組み合わさっていくのを本当に楽しんでいます。そういうことしか考えていないので、『上手く書こう』とか『上達したい』なんていう雑念が入り込む余地はないんですね。自分にとっては、今この瞬間の一筆が全て。それで書き終えた後に、『あ、ここが上手くなっているな』と思うことはあります。強いて言うなら、それが積み重なって“書道”になっている、という感じでしょうか。こうした書への向き合い方は、書道教室の生徒さんたちにも伝えていますよ。『力まずに、一筆一筆を無心で楽しんでください』と、教室を開いた当初から頑固に言い続けています(笑)。
 ちなみに常に楽しく、モチベーション高く日々を過ごしていることで、僕はいつどんな状況でも、その与えられた環境の中で最高のパフォーマンスができると自負しています。それこそストリート時代は雑踏の中で書いていましたし、寝起きでも、周りを子どもが走り回っていても、もちろん今この場でもパッと書くことができますよ。つまりいつでも集中できるよう、朝起きてから夜眠るまでずっと平均的に良いモチベーションを保つことを心がけているわけです。実際には仕事柄、イベントやテレビの生放送など、やり直しが利かない中で書くことが多いというのもありますが、基本的にはどんな依頼であっても一度で仕上げるのが自分のスタイルです」

「楽」だけに焦点を絞った生き方

武田さんの話の中には、「楽しい」という言葉が頻出する。その言葉は、武田さんの人生のキーワードであり、座右の銘なのだそうだ。

「『楽』という字は、『ラク』とも『楽しい』とも読めますよね。僕はこの2つのテーマに絞ったことしか行いません。人が力を抜いて楽しめること、そして僕自身も力を抜いて楽しくやれること。それは書道に限らず、日常の全ての行いに通じています。例えば朝起きて、顔を洗って、歯を磨いて、ご飯を食べて・・・なんてことも『楽しもう』という意識がなければ、ただ『こなす』だけの繰り返しの作業です。それを、蛇口をひねると水が当たり前に出てくることに感動してみたり、どれだけ少ない水で効率的に顔を洗って歯を磨けるかに挑戦してみたり、そんな風に何でも楽しむ工夫をしてみる。そうすれば常にワクワクしていられますし、今を大事にすることにも繋がるはずです。僕は、『次』に何かをするために『今』を雑にこなしたくないんです」

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