巻頭企画 天馬空を行く

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スキー業界の発展を見据えて

20151101_tenma_ex0301様々な社会的要因から親がペンションを運営していた関係で、幼い頃から商売に慣れ親しんできた上村さん。ビジネスの観点からスキー界のことを考えることもあるという。

「実家がペンションでサービス業というものが身近だったこともあり、将来はパン屋さんかケーキ屋さんになりたいと思っていました(笑)。ただ、今はアルペンスキーヤーの夫が飲食店も運営していて、近くにいるからこそその難しさが見えるので、世の経営者の方々は本当に大変な思いをされているのだなというのが実感として分かるようになりました。私自身は『何かやりたいビジネスはあるか』と問われたら返答に困るのですが・・・スキー関連のことでこんなサービスがあったら面白いのにって考えることはあります。
 例えば最近ではインバウンドで海外からの旅行者が年々増えていますから、そういった方々をうまくスキー場のあるリゾート地などに誘致できれば、スキー業界全体の活性化にも繋がるでしょう。特に東南アジアの方々はスキーどころか雪さえ見たことがない人が多く、もの珍しさもあると思いますし、ぜひ雪山の魅力やウインタースポーツの楽しさを知ってもらえたら嬉しいですよね。そしてその一環として、例えばスキー用品メーカーとホテルや旅館が提携すれば、宿泊者が好きなウェアやスキー板などを自由に選べるサービスなども提供できると思うんです。温泉旅館には必ず浴衣が置いてあるのと同じように、スキー場の近くの宿泊施設には必ずスキーウェアが置いてある・・・みたいになっていけば面白いですよね」

誇れる自分であるために

最後に、世の中小企業経営者へのメッセージを聞いた。

「メッセージなんて、おこがましすぎます(笑)。スポーツよりもビジネスのほうがよっぽど難しくて大変なことも多いでしょうし・・・。スポーツ選手は自分で進退を決められるし、基本的には自分のことだけを考えていればいいのですが、一方で経営者の方々は自分1人だけでなく周囲の人の人生を背負っている。それって率直に、本当にすごいことだなと思います。そのなかでスポーツと同様に大事だと思うのは『やると決めたら前だけを向いて、良くなる努力をし続ける』こと。やはりポジティブに考えるのが一番いいのかなと思いますね、すごくシンプルなことなんですけど(笑)。
 ちなみにモーグルはとにかく落下しながら滑るスポーツなので、怖がったり目線が下がったりするとすぐに体の重心が後ろに傾きスピードが落ちてしまいます。そうならないように遠くを見ながら一つひとつのコブをクリアしていくのですが、楽に滑らせてくれるコブは1つもありません。まったく違う形のコブがどんどん迫ってくるので、それに臨機応変に対応する力が求められるのです。一つひとつの課題に対処しながらどのラインを行けばベストなのかを常に考える必要がある、また『瞬発力』と『判断力』が大事になるという意味では、もしかしたら企業の経営判断に似たところがあるかもしれません」

やるからには前だけを向いてポジティブに─その思いが、上村さんの代名詞でもある“愛子スマイル”に繋がっているというのは想像に難くない。上村さんが大事にする言葉に、その原点をみた。

「私の好きな言葉は『明日笑うために、今日頑張ろう』。昔からというわけじゃないんですけど、この言葉を知ったときに“あ、私はこうやって生きてきたな、これからもそうやって生きていきたいな”と素直に思えたんです。仕事やスポーツ、学校や家庭・・・どんな環境であれ、今自分がいる場所、与えられている場所で一生懸命になれることがあるというのは、すごく幸せなことだと心から思います。一生懸命になるからこそ大変なこと、辛いこと、超えられなくて悩むこともあると思いますが、そうしたなかで私は『自分のできることを精一杯やることが明日に繋がる』と言い聞かせながら今までの人生を歩んできました。その結果、すごく充実した日々が過ごせたという実感があります。だからもし『モーグルを始めた14歳のあなたに今の自分を誇れますか?』と聞かれたら、一応、『はい』と答えられるかなと・・・。
 オリンピックのメダルには手が届かなかったので、現役生活をどうやって誇ればいいのだろうと悩んだときもありました。でも、やりたいことを全うできたし、次々に生じる課題に対して真剣に取り組むことができたし、当時は想像もできなかったものをたくさん手にすることができた。 “手を抜いたところがないよ、一生懸命に取り組めたよ”という意味で、やっぱり当時の自分に胸を張って会えると思いますね(笑)」

対談時は終始笑顔、心の美しさが表情から滲み出ていた上村さん。現役時代は注目度が高かっただけに常にプレッシャーとの戦いだったと言うが、オリンピックという大舞台で一つずつ順位を上げていくことができたのは、試行錯誤を重ねながら地道に技術を磨き、自らの気持ちと真摯に向き合い続けてきたからにほかならない。今後の身の振り方はじっくり思案中とのことだが、きっとまたどこかのタイミングで、胸のすくような笑顔をみせてくれることだろう。

(取材:2015年9月)

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