巻頭企画 天馬空を行く

 

クラフトビールで新たな購買層を刺激

ここ数年のうちに、コンビニやスーパーでクラフトビールそのものを目にする機会が圧倒的に増えた。また、十種類以上ものクラフトビールが楽しめる飲食店も増えるなど、日本は今まさに第2次クラフトビールブームに沸き立っている。では、井手氏は同業他社であるクラフトビールメーカーのことをどのように捉えているのだろうか。

「昔こそ皆ライバルだと感じていましたが、今は規模的にもだいぶ差がついてきましたし、競争するというより切磋琢磨し合って業界を盛り上げたいと思っています。90年代の地ビールブームのときとは違って、今は小さな規模でも本当に美味しい良質なビールをつくるところがすごく多いんです。ただ、それ自体は喜ばしいのですが、国税局のデータによると全国のビール業者のうち、年間の純利益が50万円未満、もしくは赤字の会社が半数以上。ほとんどの会社が、経営難で苦しんでいる状況なんです。せっかくビールが美味しくても、ビジネス力がないと生き残れない。当社の『よなよなエール』がそうだったように、まずはその存在に気付いてもらえなければ意味がないわけです。ブームは、来れば必ず去ります。次のブームまで持ち堪えられる会社がどれだけあるか──その点においてはやはり不安なので、ぜひビジネスの面でも頑張って、クラフトビール各社が体力をつけていってくれればと思いますね。
 今、日本のビール販売市場におけるクラフトビールのシェアは、金額ベースで言うと1%にも届いていません。ご存じのように、日本のビール市場は大規模な施設で大量生産しやすいラガービールを売り出す、大手ビールメーカーの寡占状態にあるんですね。
 とはいえ、我々は決して日本の大手のシェアに挑む気はありません。そうではなく、これまでビールを飲まなかった人やビール離れが叫ばれている若者、女性などの新たな層を、エールビールで刺激したいと思っているんです。それは言わば“新しい市場の創出”に近いわけですが、ちなみにアメリカでは年々、エールビールのシェアが順調に広がり、今では金額ベースで20%に近づきつつありますし、その意味で日本においても、クラフトビール市場が大きく広がっていく可能性は高いと予測しています」

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目標をクリアし、次なるステージへ

すでにある市場の中でパイを奪い合うのではなく、これまでになかった大手以外のビールを飲む層を開拓することで、ビール市場全体の規模拡大を図る。そして、手始めにヤッホーブルーイングが取りかかっているのが、クラフトビールをより身近なものにするための試みだ。

「まずは店頭に置く数を増やしています。当社の計画が順調に進めば、近年中には日本のほとんどのコンビニ・スーパーで、我々のビールを当たり前に目にすることができるようになります。そして2020年頃までには、あくまでも途中経過ではありますが、日本のビール市場の1%のシェアを単独でとりたい。
 それと同時に現在、都内で少しずつ『よなよな BEER KITCHEN』という公式のビアレストランの展開を広げていっています。首都圏や地方都市を中心にこの店を増やしていき、3年を目処に30〜40店舗くらい出店させたいですね。このビアレストランは、ヤッホーブルーイングのアンテナショップ的な役割を果たします。というのも、例えば普通の居酒屋や飲食店は、1〜2
種類のビールしか置いていないところがほとんど。そうであれば、より大衆的なビールを置くのが当たり前で、シェア1%しか取れていないクラフトビールを選ぶオーナーなんてそうそういません。つまり、一般の飲食店に我々のビールを置いてもらうようアプローチをしていくのは、非常に難易度が高いのです。そこで、自らアンテナショップとして店舗を展開していくことでファンの拡大を目指すと共に、興味を持ってくれた飲食店オーナーにはぜひ一度飲んでもらい、良いと思ったらお店のメニューに取り入れてみてほしい。そういう順序で広げていくのが理想的かなと思っています。
 また海外展開に関しても、今年から選任の担当を付けるなど徐々に本格化させています。すでにアメリカを中心に複数の国に輸出していまして、いずれは世界各地の色々なところで当社のビールが飲まれるようになれば嬉しいですね。大手のような規模には到底かなわずとも、『ヤッホーさんのファンは熱狂的で、ロイヤリティが高い』なんて評判が広まるような、濃いファンが世界中にいるという状況をつくりたい。
 とはいえ、まずは日本からです。我々のビールを飲んでクラフトビールそのものの面白さに気付いてもらい、全国各地のクラフトビールを飲んでみようと思ってもらえるような、そのきっかけづくりができれば最高です」

こうした当面の目標は、着実に現実のものになりつつある。そしてその先の未来設計図は、今まさに描き足しているところだと言う。ヤッホーブルーイングのクラフトビール市場でのシェアは断トツでトップ、ビール業界全体で見ても大手5社に次ぐ第6位にまで上り詰めた。井手氏に、これほどの躍進企業へと育てることができた要因を聞いてみたところ、非常にシンプルな答えが返ってきた。

「諦めないこと、そして情熱を持ち続けることです。我々のビールに対する熱い思いは、どこにも負けません。当社のミッションは、『ビールに味を!人生に幸せを!』。味わいのあるビールをつくることで日本に新しいビール文化を創出し、1人でも多くの人にビールの奥深い魅力を知ってもらい、幸せを感じてほしい。壮大ではありますが、本気でそう思っています。だから当社では、バラエティ豊富で楽しくて新しい“エールビール”しかつくらない。それも、“個性的なエールビール”しかつくらないのです」

「ヤッホーブルーイング」は、醸造を意味する「ブルーイング」に、軽井沢の地から「美味しいビールができたよ」と呼びかけるイメージから、やまびこの「ヤッホー」というかけ声を組み合わせた社名だ。創業時から根付くそのユーモア性が、今後も同社の根幹に流れるDNAとして受け継がれ、独創的でイノベーティブな取り組みを支え続けていくに違いない。

(取材:2015年7月)

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株式会社 ヤッホーブルーイング
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本社所在地 〒389-0111
長野県軽井沢町長倉2148
醸造所所在地 〒385-0009
長野県佐久市小田井1119-1
URL http://yohobrewing.com/
設立 1996年5月
資本金 1000万円
従業員数 120名(2015年7月)

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