巻頭企画 天馬空を行く

未来工業 株式会社 代表取締役社長 山田 雅裕

山田 雅裕? YAMADA MASAHIRO
1963年生まれ、岐阜県出身。未来工業(株)の創業者・山田昭男の長男として生まれる。大学卒業後は未来工業(株)に入社し、松本営業所長、製造企画課長、山形工場長などを歴任する。2008年6月に子会社・神保電器(株)の社長に就任。リーマンショックなどの危機的状況から会社を立て直すなど実績を残し、2013年6月に未来工業(株)の4代目代表取締役社長に就任した。

苛烈な労働条件や低賃金によって「ブラック企業」と揶揄される会社が取り沙汰される中、「日本一ホワイトな会社」として度々メディアに紹介される、未来工業(株)。しかし同社は何もホワイト企業を目指したわけではない。現在の会社のスタイルは、ものづくり一筋の歩みにおいて、いかに会社として利益を創出するかを考え抜いた末に行きついたものだという。創業50周年を迎え、なお躍進を続ける同社の理念を、創業者の子息であり、4代目社長である山田雅裕氏へのインタビューを通じ、掘り下げていく。

「まず、弊社は“日本一幸せな会社”と世間様で呼ばれ、ホワイト企業大賞などにもノミネートされていますが、別にホワイト企業を目指してきたわけではなく、ホワイト企業と公言したこともありません。我々は我々流にずっとやってきていて、その結果がたまたま評価されただけ。その点は、誤解して頂きたくはないと思っています」

ホワイト企業として注目を集める未来工業とは、いったいどのような会社なのか。こうした取材テーマに沿ってインタビューを始めようとしたところ、同社の代表取締役社長、山田雅裕氏の口から最初に発せられたのがこの言葉だ。あくまでも自然体、思うことを思うようにやってきた50年の結果として、未来工業の今がある。最初はその事業内容から、未来工業のスタイルを紐解いていく

未来工業のものづくり

未来工業の創業は1965年。現社長・雅裕氏の父親である創業者・山田昭男氏を中心とするメンバーでスタートさせた。事業は大まかに言ってものづくり。具体的には、電気工事業者向けの工事用資材をメインとし、給排水設備、空調設備、ガス関連資材、床材、太陽光関連資材などの製造を手がけてきた。
 競争相手は多かった。しかしそうした中で、例えば同社の主力製品の1つである「スイッチボックス(電気スイッチの内側に取り付ける資材)」は、今日では日本におけるシェアの70〜80%を保持している。すなわち、それだけ多くの専門家から必要とされる商品を送り出してきた、ということだ。

「電気や水道、ガスなどは、取り扱いを一歩間違えば大きな事故が起きたり、人命にかかわることすらあるものです。当然ながら、製品に関する規制は非常に厳しいがゆえに、工事の資材は一様に同じようなものばかりが市場へ出回っていました。そうしたところへ新規参入する時、他社と同じものをつくっているだけでは、価格競争に巻き込まれてしまうでしょう。そこで弊社では法律の合間を縫って、少しでも工事をする業者さんが使いやすいような製品を作っていったのです。たとえば、弊社の製品を使えば仕事の効率化が図れ、これまで1日2件までしか回れなかった現場が3件回れるようになる。そうすれば業者さんは、たとえ多少値が張ろうとも、弊社の製品を使ってくれるようになります。そうして信頼を得れば、他社が同様の製品を出してきたとしてもそのまま弊社との取引を続けてくれます。そうやって、弊社はこれまでものづくりを続けてきたのです」

また、バブル崩壊を境に生産拠点を海外に置く製造系の会社が急激に増えたが、未来工業では現在、岐阜県内で新工場設立の準備を進めているという。

「実は弊社も過去に、海外で生産を進めようと試みたことがありました。しかし輸送コストの面でどうしても採算が合わず、断念したという経緯があります。新工場の建設自体は現在の工場の老朽化が主な要因ですが、遠方の拠点で製造している製品を岐阜に集約させることで、運送コストがかからなくなる、という利点もあります」

“残業ゼロ”の真意

山田社長の口から出た「コスト」という言葉は、未来工業を語る上で1つのキーワードと定めてもいいかもしれない。未来工業の本社には受付がなく、来客は案内表示をたよりに呼び出しの電話のところまで行き、要件のある部署に一報を入れてから移動する。また、社内には必要最低限の明かりしかついておらず、電灯から下がっている紐を自身で管理し、節電に努めている。このように徹底されたコスト意識の中には、もう1つ、非常に重要なものが含まれている。「残業」だ。

「創業者・山田昭男の言葉に『残業ゼロ』『残業禁止』というものがあります。これについて皆様は『未来工業は残業を禁止している、残業がゼロだ』とおっしゃいますが、実際の言葉は体言止め。つまり、弊社の『残業ゼロ』は、あくまで弊社の目標でしかないんです。たとえば最近は太陽光関連の部材の製造が忙しく、とても残業ゼロとは言えない状況が続いています。お客様あっての仕事ですし、残業が必要とされることも往々にしてあるんですね。
 ただ、我々の考え方として、残業は利益を削るものという認識があります。たとえば同じ商品が2つ並んでいて1つは100円、もう一方は残業代が乗って125円だとしたら、絶対に後者は選ばれません。そこで同じ100円にしようとすると、今度は会社自体の利益が減ってしまう。つまり残業は会社にとって害のほうが大きいから否定しているだけ。言葉自体が一人歩きしているような状況ですが、根底にあるのはそういった考えです」

山田昭男氏をはじめとする未来工業の創業メンバーは、もともと1つの劇団に属していた仲間であったという。当時、別々の会社に勤めていた彼らは、残業のため稽古に集まることが難しいという問題を抱えていた。未来工業に『残業ゼロ』という発想が生まれたのは、こうした背景にも起因する。そしてそれは、日本の企業活動へ対してのアンチテーゼでもあった。

「日本はまだまだ『残業をする社員=会社のために頑張っている良い社員』という評価をしているところは多いでしょう。しかし先ほど申し上げた通り、残業は会社の利益を圧迫します。だから経営者は会社に利益を残すため、いかに社員に残業をさせないかを考えなければいけない。そして社員には仕事以外の時間を有意義に使ってもらい、自分を成長させ、それを会社に還元してほしいんです」

創業者・山田昭男氏がつくった会社の理念と、そこに基づく会社のスタイル。それは、山田雅裕社長の代になっても変わらない。とはいえ、社長自身は自らを「社員の担ぐ神輿に乗っているだけ」と評する。あくまでも社員が中心。そして社員が自主的に活躍できる社風こそが、未来工業という会社の最大の持ち味なのだ。そんな未来工業の最大の特徴を表すシンプルな言葉がある。

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COMPANYTANK 2017年11月号

巻頭にはプロ野球選手・井口資仁氏がご登場!現役引退直前に何を思うのか──氏の信念、そして今後に向けた思いまでを存分に伺いました。

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