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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

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経営を向上させるのは今も昔も現場主義

宗次氏が大事にしているのは、今も昔も現場主義だ。創業者というのは、事業が軌道に乗るまでの間は不眠不休で働くもので、閉店時に自らの手で解体を行う宗次氏ほどではないにしろ、誰しも会社や店に強い思い入れを持っている。
 しかし、経営が軌道に乗った場合はどうか。最初のうちは店に入って客を接待したり掃除をしたりしていた経営者も、そのうちに従業員に任せるようになり、自らは「人脈を広げるため」という目的の遊行に忙しくなってはいないか。つまり、いくぶん楽になるとすぐに現場主義を忘れてしまいがちだ。

「決してそれが悪いこととは言いません。しかし自分の店を毎日巡回しようとしない経営者がいるのはなぜでしょう。そのような時間がない、店長に任せている、と巡回できない理由を口にしますが、1日15分でもいいから店に出て内外をチェックし、従業員に話しかけ、お客様を送り出すことがどれほど重要か」

宗次氏は、たいていの店は努力次第で必ず売り上げが伸びると考えている。最初のうちは苦労しても、少しずつでいいから年々上積みをする。そうすることによって、従業員も「前進している。右肩上がりになっている」と実感することができ、モチベーションも高まるからだ。安易に閉店を考える前に、試すべきことはたくさんある。

「売り上げが落ちるのは経営側の責任です」と宗次氏は断言する。
「現場を見ない経営者ほど、売り上げが落ちると従業員や立地、その他の社会的環境に責任を押し付けたがりますが、決してそうではない。店に何の思い入れも持たず、よそ見をして経営をしていれば儲からないのは当然です。常にお客様のほうだけを向いて、謙虚に、ひたむきに、そして果敢に経営をしていれば、たいていの店は繁盛店になっていきます。むしろそういった努力を重ねて売り上げを伸ばしていくことこそが、商売の醍醐味ではないでしょうか」

一昔前なら、経営者の仕事は「仕事を取ってくること」そのものだった。客先を回り、頭を下げて仕事をもらう。そんな泥臭い仕事が「社長の仕事」というイメージでなくなったのはいつからだろうか。デスクに座って一日中パソコンとにらめっこ、という経営者は少なくない。
 もちろん情報化の時代、経営戦略には情報を集めたり、発信したりすることが大事だ。しかし「最高のアイデアは現場に落ちている」という宗次氏の言葉は、「外から取り入れる情報こそが宝」と言ってはばからない経営者と一線を画している。

「例えば中古自動車販売店で、お客様の元に同行し納車をしている社長はどれくらいいるでしょう。経営者にとっては何十台か売れた中の1台ではあっても、お客様にとって自動車を買うことは人生の一大イベントと言ってもいい。そのようなシーンに記念撮影でもしてあげれば、お客様はきっと喜んでくださり、口コミも広まるかもしれません。それは、下手な宣伝広告よりも意味があると思いませんか」

確かに、どのような業界であっても、そしてどのような時代であっても、口コミというのは大きな武器である。価格競争や経費をかけるより、長期的にみれば会社は着実に発展する。もちろん、経営者が誠実で心を込めた、お客様第一主義を貫くことが必要だ。

売り上げ向上の秘訣はパソコンの中では見つからない。宗次氏が繰り返すように現場に落ちている。そして、経営者が率先垂範して働く姿勢を見せていれば、従業員はおのずと育ってくる。宗次氏は実際に自分の働く背中を見せることで、後継者も社員も育ててきた。現場主義は売り上げ向上と共に人材育成の上でもメリットが大きい。

目標とは日々の積み重ね

さて、多くの音楽ホールがそうであるように「宗次ホール」の経営も決して順風満帆ではない。バブルのような頃ならともかく、企業業績が伸び悩んでいる今の時代、クラシックよりもまずは食べることで精一杯という人は少なくない。
 しかし、宗次氏のもとにはこんな手紙が届く(客から手紙を受け取り、それを経営に反映させるのはCoCo壱番屋からの伝統だ)。
 「先日コンサートに行った者です。チケット代金は私の1週間分の生活費でしたが、それを支払うだけの価値がありました。また行きたいです。ありがとうございました」

宗次ホールのクラシックコンサートは、栄駅を降り、イエロー・エンジェル通りを歩くところから始まっている。美しく清掃された歩道と満開の花を見ながら歩き、音響効果の優れた設備で演奏家の奏でる音楽にしばし時を忘れる。
 「お客様が増え続けている以上、商売を続ける意味がある」と宗次氏は言う。宗次ホールに来る客は年々増え続けている。そして宗次氏は今もホールの出入り口に立ってお客を出迎え、また見送る。

「見てくださいこの手を」
筆者を見送る際に宗次氏が両手を開いて見せてくれた。肉厚のその手は、創業者らしい苦労が滲み出ているようにも見える。「もしかすると、熱いカレー鍋を握ったり、洗ったりする中でそのような手に・・・」と尋ねたところ、一笑に付された。

理由は「毎日の道路清掃と、歩道や分離帯へのガーデニングですよ」と笑って答え、一向に気にしていない。

最後に夢を尋ねた。

「私自身の夢はありません。もちろん宗次ホールをより良いものにしていくという目標はありますが、それは夢じゃない。日々の積み重ねで手に入れられるものは“夢”でなく、目標だから。それでも強いて“夢”を挙げるなら、それは私自身のことではなく、地域社会に対しての“夢”ですね。いたる所に花が咲き、助け合いの意識が今の10倍となり、寄付社会となることでしょうか」

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(取材/2014年7月)

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株式会社 壱番屋

本社所在地 〒491-8601 愛知県一宮市三ツ井6-12-23
URL http://www.ichibanya.co.jp
設立 1982年7月1日
資本金 15億327万円

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