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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

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日本のサラリーマンの今

20131101_tenma_ex01不安定な時代であるだけに安定を求め、チャレンジすることに臆病になりがちな昨今。だからこそ挑戦し続けることに価値がある。チャレンジスピリッツを奮い立たせることが日本経済にはびこる閉塞感を打破することに繋がると氏は説くが、それを担う日本のサラリーマンは果たして、自分の会社についてどう思っているのだろうか。

「経済評論家・池田信夫氏は自著『アベノミクスの幻想』で、面白いことを書いている。端的に言えば日本のサラリーパーソンは皆、自分の会社が嫌いだと。大っ嫌いであると。それを裏付けるデータとして、『“自分と会社は同じ価値観を持っている”と答えたサラリーマンはわずか19.3%しかいない』という数字が出てくる。つまり約8割の人は会社の姿勢に共感できないまま勤めているというわけだ。ちなみにアメリカだと、その数字が41%に跳ね上がる。さらに『今あなたが置かれている環境を入社前に知っていたら今の会社に入社しましたか?』という質問に対し『入社した』と答えた人の割合は23.3%に過ぎなかったそうだ。一方でアメリカ人は69.5%がYesと答えている。
 アメリカのサラリーマンはおよそ会社に満足しており、日本のサラリーマンはほとんど満足できていない。つまり極論を言えばある意味、日本の会社はほとんどがブラックということなんですよ。上の言うことをハイハイと聞くことが求められるため、結果サラリーマンはイエスマンだらけ。そうなってしまったらモチベーションなんて上がるわけがない。だって自分の頭で考えないんだから。結局、新しいアイデアや付加価値も生まれてこない。それを生み出すためにはやはりチャレンジすること、なんです」。

氏の言う「チャレンジ」の要素の多くを占めるのが、起業だ。かつて新会社設立件数は年間約2万件程度だったが、2006年に会社法が改正され資本金1円で株式会社が設立できるようになって以降、その数字は約8万社まで増加した。しかしそれでもまだ少ないと、田原氏は指摘する。

「アベノミクスのなかに『産業新陳代謝』という新機軸がありましたけどね、たしかに日本では起業、そして廃業が少ないことが問題だと僕は思う。特に中小企業の新陳代謝を活発にしなければダメ。でも、なかなかそうはならない。というのは、敗者復活がしづらい社会だからなんですね。
 基本的に中小企業経営者は、経営が回らなくなってもギリギリまでなんとか頑張ろうとする。なぜか。中小企業経営者の多くは個人資産を担保にして銀行から融資を受けているからです。倒産したら最悪、首を吊って死ぬしかない。それでダメだと思いながら続けてしまっている・・・。その点、欧米は敗者復活がしやすい社会なので新陳代謝がすごくいいんです。だから僕は言いたい。『銀行はもっとリスクを負え!』『コンサルタント的な役割をしろ!』と。銀行がもっとリスクを負って経営者の個人資産など担保に取らなければ、安倍首相の言う“産業新陳代謝”は確実に進みますよ。ダメになったら廃業して新たにチャレンジできる、そういう社会にすべきではないか」。

中小企業経営者が持つべき発想

起業する人間が増えてこそ産業は活性化する。その意味でこれから新陳代謝の役割を担っていくであろう、弊誌の主な読者層でもある中小企業経営者へのアドバイスを、最後に語って頂いた。

「繰り返しになるが、業績を上げるには自社の特長を出すこと、他社との違いはどこにあるかを明確にすることです。他の企業と同じものをつくっていたとしたら、勝負するのは値段しかない。競争になったら安くするしかない。そうなったら倒産するに決まっている。もちろん新しく会社を興すときも、まずは独自性を考えるべきだ。
 もう1つ僕が経営者にとって大切だと思うのは、『常に疑問を持つ』こと。メディアの報道などに疑問を抱かず鵜呑みにするような経営者は失敗しますよ。それが真実とは限らないわけですから。常に好奇の目を持ち疑問を抱き続けることで、経営するうえで大切なことも見えてくるはずです。
 それと社員教育について。先の“会社が嫌い”という話でいうと、中小企業の社員のほうがその比率が高いと思う。これはもう、経営者が悪いんだよね。だからもっと、社員が面白がるような会社にすることが一番ですよ。頭で考え、考えたことが実行できる体制が整えば、社員も面白がってやる気が出てプライドも高まることは間違いない。そう言えば、ローソンの新浪さんはこう言っていた。
 2000年に新浪さんがローソンに外食事業室長として入社したとき、社員は自社の取り組みに誇りを持っていなかったそうだ。社員の皆にプライドを持たせ、モチベーションを高く保つにはどうしたらいいか。それに頭を悩ませた彼が真っ先に注力したのが、コンビニの顔とも言える“おにぎり”づくりだった。『最も素晴らしいおにぎりをつくっている』という自信とプライドを、社員に持たせたわけだ。
 何度も言いますが、プライドを持てばやる気が出る。そうやって新浪さんは、コンビニ業界で確固たる地位を築いたんだ。これは中小企業も一緒。従業員にどうやってやる気を起こさせるかに苦悩する中小企業経営者も多いが、まずは『いかにプライドを持たせるか』というところから考える必要があるでしょうね。それと当たり前ですが、経営者本人が仕事を面白いと感じていないと。日本企業の多くの従業員が会社を嫌だと思っているだけに、自分が楽しんで社員も面白がるような会社にすれば、そういう環境を生み出せば必ず業績は伸びますよ。
 そうそう、肝心なことを思い出した。僕は近江の国・滋賀県出身なだけに、幼稚園生の頃から近江商人の“三方よし”の精神を教え込まれてきた。情報に溢れた今だからこそ、売り手・買い手・世間の全てのよしを考えるこの精神は、本当の意味で求められているのではないか。
 最後にもう1つ、近江商人の言葉に“運鈍根”というのがある。成功するには『幸運』と『根気』と『鈍いくらいの粘り強さ』の3つが必要である、ということだ。いい意味で馬鹿正直に根気よくやっていれば、きっと運が開けていくのではないか。僕はそう思うな。」

(取材 / 2013年9月)

田原 総一朗
オフィシャルブログ
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