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川澄流人材登用術

20131001_tenma_ex01学生時代、そしてINAC神戸レオネッサでキャプテンを務め、チームをまとめてきた川澄。畑や規模は違うが、経営者も同様の立場にあると言える。そのなかでも大きなウェイトを占める「人材」について、川澄はこう語る。

「お門違いかもしれないですけど、もし自分が経営者になって人を雇うとするならば、資格やスキルよりもまずは人柄を見ます。特に第一印象、話し方や挨拶といった点は重視しますね。そのあたりがしっかりしている人であれば、たとえ他の人よりスキルが劣っていたとしても後から指導していくことで挽回できますし、何より会社に入ったときに良い意味で自らのペースに巻き込んでいくことができますから。そして、会社もサッカーチームも一丸となって目標に向かっていくわけで、その意味で大切なのは情熱。情熱があり、気持ちの強さを持っている人が私は好きなので、そういう人と一緒になって努力していきたいと思っています。
それと、私のサッカー人生のなかで『あの人は絶対に活躍する』『代表に選ばれる』と言われていた選手もたくさん見てきましたが、全員が評判通りに活躍できた訳ではありませんでした。最終的に残る人と、そうでない人。その差を分けるのがサッカーに対する気持ち、熱意であり、そこからくる姿勢やサッカーへの取り組み方だと思うんです。もちろん気持ちだけで勝てるほどサッカーは甘いものではありませんが、気持ちの部分がベースにあるからこそ自己向上に向けた行動ができるわけで、気持ちがなければ何も始まりません。これはおそらく、仕事や人生においても一緒だと思います」

また、サッカーチームは一般の企業と同じく、多様な年齢の選手がチームに加わることになる。多くの経営者の頭を悩ませるジェネレーションギャップについては、川澄もチームメイトとの日々の交流のなかで感じることが多いという。

「チームでは私も年長の部類に入り、今年入団してきた選手は私より10歳も年下です。そこでの考え方のギャップを感じることはやはり多いですし、それが企業の方ともなれば20〜30歳という開きになるわけで、その差は非常に大きいでしょうね。それと昨今、個人的には世の中において体育会系色が薄まっていると感じています。元々サッカー界では殴る、蹴るといった体罰問題はほとんど聞くことはないのですが、一方で私は日本体育大学時代に上下関係を重んじる世界で過ごしてきました。ただ、それは私にとっては当たり前のことで、なぜなら自分よりもいろいろな知識や経験を持っている先輩の言うことは絶対だと思っていたからです。そして、自分が先輩方の域に達するためにも、先輩方を敬うべきだと考えていました。たとえその時は理不尽なことを言われていると感じたとしても、10年後、20年後にはその真意が分かるかもしれない。厳しいこともプラスに捉えることが、自分にとってもいいことだと思っています。

そして、女子サッカーという世界においては、特に私たちの世代間と若い世代の間に大きなギャップが生じる部分はあります。具体的には、FIFA女子ワールドカップの優勝以前を知っているかどうか。ワールドカップの優勝によって、ありがたいことに日本女子サッカー界は大きな注目を集めるようになりました。しかしそれ以前は非常に厳しい状況が続いてきており、その頃の厳しい時代を知っている世代と、今年高校を卒業して入団してきた選手たちの間では、現状認識が大きく違うのです。
私はそのなかでチームをまとめていかなくてはいけない立場ですが、そこで私を助けてくれているのが、副キャプテンの髙瀬(髙瀬 愛実選手)。彼女は今年で23歳になりますが、INAC歴で言えば私の次に長い選手です。若い選手とは年も近く、それでいてかつての厳しい時代を知っています。そして個人としてもなでしこジャパンのメンバーとして大きな大会に出場しつつ、悔しい経験をしてきています。そんな彼女が私たちの世代と若い世代を上手く繋いでくれているんです。
ただ、私たちはあくまでサッカー選手としてチームに集っているわけですから、私はキャプテンとして試合中や練習中の姿勢、そして時には厳しい言葉をかけるなどしてチームを引き締めていく必要があると感じています」
INAC神戸レオネッサを例に取ると、2010年、そして2011年前半のリーグ戦では観客動員数が1000人を超えることすら稀であった。しかしワールドカップ直後のホームゲーム3試合では合計6万人以上の観客を集めるなど、その注目度は文字通り桁違いとなった。現在では一時の熱は落ち着いてきたとはいえ、2013年の観客動員数は平均4000人を超えるなど堅調に推移。その勢いやチームの実力、そしてチームの独立採算が計算できるようになってきたことを受け、INAC神戸レオネッサは2013年シーズンから全選手を所属運営会社の専属社員として契約し、実質的な全選手のプロ化を果たした。これは昼間は企業に勤め、夜間に練習を行うことが一般的であるなでしこリーグにおいては突出した好待遇である。川澄はその劇的なまでの変化を当事者として体験しているからこそ、日本女子サッカー冬の時代を知らない若手に対してプロとしての厳しさを求める。それはキャプテンシー、そして自らが抱くアスリートとしての矜持に他ならない。
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