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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

物販からソリューション提供へ

20130901_tenma_ex01創業から半世紀、時代の変遷に従って変貌を遂げ、現在はローエンドからハイエンドまであらゆる製品を網羅し、世界にその名を知られる存在になった富士ゼロックス。今、同社はさらにダイナミックな変革の最中にある。

2007年6月、代表取締役社長に就任した氏は翌年から思い切った改革に乗り出す。視線の先にあったのは、「モノ売り」から「コト売り」へ舵を切るビジネスの転換だった。

「具体的には、複写機というハードの製造・販売から、ソリューション販売を事業戦略の新しい柱としました。受注競争が激化する昨今、製品の価格や機能だけで訴求する従来型の営業では、もはや生き残りは難しい。いかにお客様の課題や悩みを分析し、その解決に資する手段を提供できるか。鍵を握るのは価値提案です」

改革を推し進めるためには、社員一人ひとりの意識改革が必要だった。皮切りとして氏が実行したのが、コーポレートロゴの一新だ。

「創業以来、大文字でゴシック体だったFUJI XEROXのロゴを、丸みを帯びた書体の小文字へと変更しました。大文字は立派なハードウェアを連想させますが、柔らかな小文字は親しみやすさや温かさを感じさせます。メーカーとしてモノを提供する一方通行の関係ではなく、お客様の隣でビジネスをサポートするパートナーとなる。そんな姿勢を表現したのです」

同時に、それまでは関連会社や販売会社ごとにバラバラだった社章を統一。連携への意識を強化することが目的だった。

「製品だけを販売するのであれば、地域ごとに組織が独立し、閉じた環境で競争力を高めるのもいい。しかしお客様の組織横断的に関わるソリューションを提供するとなると、地域や販売会社単独で取り組むのは不可能です。課題をシェアし、連携することが欠かせません。社章の統一は、そうした命題の象徴でした」

次に、意識を行動に落とし込むための方針として「Go To Customers」というスローガンを掲げる。

「直販体制を持つ当社には、営業だけで6000人の社員がいる。保守サービスを行うカスタマーエンジニアと、システムエンジニアを加えると、延べ1万人以上の社員がお客様との接点を持っています。ただいくら社員がいても、仕事を“複写機の販売”に限定してしまえば、お客様との関わりは一方通行で終わってしまう。そうではなく、お客様がどういった目標に取り組み、どういう点に経営課題を感じているのかを考え、見つけていこうとする姿勢が大切です。ソリューション提供のために必要なパラダイム転換の全てを『Go To Customers』の言葉に込め、繰り返し口にしてきました」

営業組織も刷新した。地域別営業を基本としていた従来の形から、金融や製造、流通、文教など、業種別営業へと大幅に変更。顧客の業種別特性を知り抜き、ソリューション提案力を掘り下げるのが目的だった。

「営業は、“お客様を知り抜く営業”と“ソリューションが得意な営業”との2つに分けました。前者は、業界の傾向やトレンドのほか、お客様の関心のベクトルや悩みなどを把握することに長けた営業。こちらがお客様の経営課題を特定したら、今度はソリューションが得意な営業部隊と連携してお客様の元に伺います」

こうした改革に伴い、顧客に対して営業が足を向ける部署も変わってきた。機器販売だけが目的なら、向かう先は総務部がメインになる。だが、ソリューション提案では、顧客のなかでより多くの部署に訪問することが重要だ。総務、人事、製造現場、販売など、あらゆる部署が課題発見の糸口になるからだ。

「大切なのは、モノを買ってくれる部署ではなく“一番困っているところ”に行くことです」

顧客からの声を体系的に捉え、シェアする仕組みとして、VOC(Voice of Customer)というシステムも整えた。これは、業務を通じて顧客から寄せられた声を記録し、社内横断的にシェア・活用するための仕組みだ。課題はデータ化され、部署の垣根なくさまざまな角度から検討のテーブルに載せられる。ここにも連携の姿勢が生きている。
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