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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

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「楽しい」が仕事のエネルギー

20130501_tenma-ex003現在、アフロには約130人のスタッフが集い、銀座本社と大阪支社、それに月島にある撮影スタジオに分かれて仕事を行っている。取締役やマネージャーといった役職はあるが、社内では社長の青木を含め全て「さん」「君」で呼ぶ。

「役職を付けて呼んだ途端に絶対服従の関係が生じる。同じ仕事をしているからには“仲間”でしょう?」
「部下が上司に意見を述べられない会社はだめだ、楽しくない」と青木は言う。ただ、面と向かって具申すると対立したり、埋められない溝を作ったりすることもある。そこでアフロが導入しているのが「評価表」のシステムだ。評価表には自己採点はもちろん、上司の採点なども自由に書き込める。他の企業で「上司の通知表」が流行った時期もあったが、アフロでは数値ではなく、言葉で表す。誰のことをどう書いても自由だ。

「同僚や上司のことを悪く書けません」と最初はためらう社員もいる。しかし「悪く書くのではなく、そのままを書くことで、評価された本人のためになる」と青木は話す。「みんな頑張っている。悪いところは何もない」と書いた社員には「人間観察が甘すぎるのではないか」と逆に指摘することもあるそうだ。
例えば評価表によってウィークポイントを指摘された社員には、直属の上司や必要であれば青木自身が面談して、短所を気付かせてあげるのだという。

「私の改善点を指摘してくる社員もいますよ(笑)。もちろんそれは貴重な意見として参考にさせてもらっています。会社はリーダーが築くもんじゃない。人が築くんです」
青木は折に触れて社員に尋ねる。
「仕事は楽しいかい?」
もちろん仕事だから厳しいこともたくさんあるが、四六時中苦しいのではお互いのためにならない。楽しくないなら他の職に就いたほうがいい、という考えだから、たとえ退職を希望する者が現れても強く慰留することは少ない。一度退職して、再び入社を希望してきた者もいるが、そうした社員をはねつけたり、過去の翻意を追及したり責めたりするようなこともない。
青木の経営は非常にシンプルだ。「楽しいことはやる。楽しくないことはやらない」。たとえ採算が合わなくても興味があることは必ず一度はやってみるし、利益が出そうでも、楽しくないことはしない。20130501_tenma-ex04 長野からオリンピック開催ごとに出版している「公式写真集」に、青木の経営理念が凝縮されている。青木はオリンピック終了後、開催地がどこであろうと帰国したその足でオフィスに向かい、写真集編集に取りかかる。ほぼ5日かけ、不眠不休で10万点以上の写真の中からジャンル別のベストショットを選び出し、本にする。
この写真集、最初は3万部以上売れていたが、最近はインターネットの普及もあり、年々購買数が落ちている。しかし、出版される度に複数冊購入しているコアなファンもおり、「ファンが存在し続ける限り、写真集は出版していきたい」と青木は言う。

写真に関わる全ての人を楽しく

もちろん、懸念材料もある。とりわけ、業界全体を通じライセンス料が下がっていることは、青木が最も案ずることの1つだ。

「売上云々の話じゃない。ライセンス料が下がれば、カメラマンの収入が下がる。とても良い腕を持っているのに、“カメラマンじゃ食えない”って廃業していくフリーカメラマンを何人見てきたことか」

青木は「世界報道写真展」の選考委員を務めているが、報道写真のなかには、紛争が続くシリアやナイジェリアといった地域から送られてくる生々しい写真がたくさんあるそうだ。

「戦争写真を見ているとね、カメラマンがどのような立ち位置で、どのような心意気で撮っているか分かるんですよ。僕もカメラマンだからね」

カダフィ大佐を長年追い続けたカメラマンが、2012年の世界報道写真展で1位に選ばれた。受賞を知らせるとカメラマンは喜び、授賞式にも出席すると答えた。ところが、選考本部のあるアムステルダムから帰国したばかりの青木の元に一報が入った。1位を受賞したカメラマンがシリアで襲われ、命を落としたのだ。

「戦争の惨状を世界に伝えたいって思いだけで危険を顧みず撮影しているカメラマンが大勢いる。そんな命が懸かった写真を安売りしちゃいけないんですよ」

エージェンシーが持つ写真のライセンス料は年々下がり続けている。その状況を憂慮して青木は同業者に値上げの申し入れをしたが断られた。もちろん自由競争下ではそれは間違いではない。しかし、企業の保全のためではなく、カメラマンの生活保障、安全保障のために値上げしたいという思いが同業者に届いているかは分からない。

青木は「楽しいことを仕事にしたい」と繰り返し口にする。もちろん、自分1人だけが楽しむのではただの独りよがりだ。働く仲間、写真を撮影するカメラマン、写真を用いるスポンサー、写真を目にする多くの人々・・・。関わる全ての人が楽しめる世の中でこそ、写真は生きてくる。たとえ、カメラマンによって伝えられたものが「悲しみ」であっても、紛争が終わり、平和が到来すれば多くの人が楽しく過ごせる世になろう。

(取材 / 2012年11月)

株式会社 アフロ (Aflo Co. Ltd.)

本社所在地 〒104-0061 東京都中央区銀座6-16-9
ビルネット館1-7F
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設立 創業 1980年
創立 1982年11月
資本金 40百万円(2012年3月31日現在)
従業員数 98名(2012年12月現在)
ホームページ http://www.aflo.com/

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