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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

地域事業活性化と
「お笑い」の力

その思いが結集したのが、地域に根差した笑いの価値創造である「47都道府県エリアプロジェクト」だ。全国の地域に着目し、そこで暮らす人々と共に考え、地域の課題に取り組む。「笑いの生まれるところに希望が生まれる地域づくり」というコンセプトで、全国47都道府県に吉本興業の芸人たちが本拠を構え、地域事業活性化に「お笑い」の力を持ち込んでいる。

「47都道府県エリアプロジェクトは単に地方で興行をやるというものではありません。その地域で必要とされる事業に、お笑いの力がどう結びついていくか。インフラのなかに笑いがどう入り込んでいけるか。そこに焦点を当てています。たとえば、愛知県犬山市ではお笑い人力車で城下町を元気にするというプロジェクトが発足していますし、地元のお祭りを盛り上げるためのイベントなども主催したり─。そういった取り組みが、地域活動の環の中に溶け込みつつあるんです。『そんなことをするより、純粋にお笑いのライブをやったりしたほうがいいんじゃないか?』とのお言葉もなくはないのですが、『笑いは人々の幸せのために存在するんだ』という空気を作っていくことが、今後、私たちの活動を支える基盤にもなると信じているんですね。もし“お笑い”の効能がより行政や社会インフラに適したものに変容を遂げていけば、吉本興業は株式会社ではなくNPO法人・吉本になるかもしれないし、時代がどう変遷するかなんて誰にも分からない。ですので、次の時代が、その折々の時代の空気をきちんと捉えられるように、基盤のナレッジになる部分を私が社長でいるうちに作っておきたい。その思いがあったのです」

次の100年につながる 社員、
タレントの心の礎

人のコミュニティの最小単位は家族であり、次に町内・村、市、都道府県、国と広がっていく。その延長線上にアジアがあることを考えると、地域とアジアが対極になることはなく、むしろつながっているのだと大﨑氏は語る。現在考えられる最大単位をアジアだとしたら、最小単位であるコミュニティをどう再生できるか、またさらにミクロに分解された「個人」という単位をどう育てていくことができるか。デジタルというインフラ・モンスターの出現により激変していく社会のなかで、大﨑氏が考えるのは、社員も、芸人も、タレントも、視聴者も、劇場の観客も、普段お笑いに触れていない人も、全てひっくるめての、人としての基盤だった。そして、それはおそらく次の100年につながる、吉本興業としての基盤でもあるのだろう。

「そういう意味では、社員に対する考え方も、わりと人情主義的なところがあるかもしれません。放任主義ともとれるかもしれませんが、私は社員を野生のなかで育てたいと思っているんです。野菜は温室育ちよりも、野生で育ったもののほうがやはり美味しい。自分の力で根を生やして水分を吸って、太陽を探して光合成をして。タレントや社員を野菜に置き換えるのはいささか失礼かもしれませんが、会社が全てバックアップして過保護に育てた人材が面白くなるとは思えないんです。吉本興業では、いろんな先輩タレントや芸歴の長い芸人たちがボルテージ高く毎日を生きています。彼らと行動をともにすることで、ぶつかったりもしますけれども、吸収するものは非常に大きい。だから私は常々『ストリートで育ちなさい』と言い続けています。もちろん時代の流れとして権利ビジネスやコンプライアンスといった、全社的に共有しなくてはいけないものは、全社対応で勉強していかなくてはいけません。ですけど、自分が悩んで傷ついて、師匠や先輩のありがたみを知って、鍛えてもらって・・・。そのなかで「自分は何で食べていっているんだろう?」と自問自答したとき、劇場に足を運んでくれるお客さんや、お笑いにお金を落としてくれるお客さんの姿が見えてきてほしい。チケット1枚売って、自分たちは食べている。そのチケットがそのお客さんに何をもたらすのか。それを考えて、個として自由な発想を広げてほしい。その発想が、私たちが今作っているデジタル・地域・アジアという枠組みに広がっていけるよう最大限、地ならしをしておいてあげたい。大﨑という社長の役割は、会社の成長動向というより、それだけのものなんですよ、実は(笑)」。

(取材 / 2012年7月4日)

吉本興業 株式会社 (YOSHIMOTO KOGYO CO.,LTD.)

本社所在地 〒542-0075 大阪府大阪市中央区難波千日前11-6
設立 1912年4月
資本金 125億450万円(2010年6月1日現在)
従業員 1287名(嘱託社員を含む)社
社員数 644名 所属タレント約800名
ホームページ http://www.yoshimoto.co.jp/

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