巻頭企画 天馬空を行く

人がスーツを着る理由
人がスーツを買う理由

ドラッカーではないが、モノを売るのではなく、コトを売るというスタンスを徹底的に貫いている治山氏。歯磨き粉が欲しいのではなく、歯をきれいにし、虫歯を予防するという目的を購入する。電動ドリルが欲しいのではなく、ドリルで穴をあけた木材を組み合わせ、子どもの遊び道具を作るという目的を購入する。リクルートスーツを買うのではなく、内定し、新しい環境でバリバリと働く未来の自分を購入する。

──そのために、企業は何をできるのか?企業の商品を扱う一人ひとりのスタッフは何をできるのか?

治山氏は、こうした目的意識の徹底と社員の教育に、現在最も力を入れているという。
「インフラ企業となるためには、弊社で言えば、お客様がなりたい自分にスーツを通じてなって頂くという『コト』を売ることが大前提。もっともスーツだけでなく、メンズやレディースのカジュアルブランドを設立し、マーケットボリュームを広げていくことを施策として打ち出していますので、そこでも『はるやま商事のインフラ感』をブランド的に浸透させていく必要があります。面白い話で、日本の男性は、年齢を重ねると自分の衣料を自分で買わなくなりやすいという傾向があるんですよ。毎日奥様のご意見を聞いているうちに、だんだんと服選びの主導権が奥様に移りがちになり、何が自分に似合うのか分からなくなるんです。もちろん奥様方のセンスを否定するつもりはありませんが、そうした顧客の意識を『自分の服選びをするのは楽しい』『自分のスーツを買って、そのスーツの延長線上にいる未来の自分を想像する』という方向に導いていきたいとも考えているんですね。そうした啓蒙活動を行うためにも、スタッフの教育には力を入れていきたいのです」

自分たちとお客様の
存在意義を再確認する

2012年に入って、治山氏は自社のコンセプトをまとめたブランドブックを制作した。自分たちは何者なのか。自分たちは何をすべき存在なのか。お客様とはどんな存在なのか。そうした「はるやま商事」のコンセプトを手帳くらいの大きさの冊子にまとめて全社員に配布したのである。
「各地の店舗を視察して必ず思うのですが、私が思い描いているインフラ的サービスが実現できている割合はまだまだ高いとは言い切れません。お客様視点になれていないと言いますか。そんな時は、ブランドブック片手に、ユニクロさんとか無印良品さんの店舗にスタッフを連れて行って、直接指導することもあります。『ほら、無印さんの店を見てみろ。ちゃんとお客様を向いているだろう?金井社長がおやりになろうとしていることを、スタッフが体現できているんだ。俺たちもそうなりたいよな、そんな企業にしたいよな』とね」

もっとも、そうしたコミュニケーションを図るには、治山氏が社員を絶対的に信用しているという裏付けでもある。

「自分で言うのもなんですが、ウチの社員は皆、本当にまっすぐで良い社員なんです。本当に、気を付けないと騙されちゃうんじゃないかというくらい素直(笑)。だからこそ、私は彼らがいれば弊社は、地域のインフラ企業になれると確信しているんです」

社員の潜在可能性を引き出すのは経営陣の役割。だからといって、治山氏は理念を押し付けるようなことをせず、あくまで社員やスタッフが自らの意思で地域や顧客に向き合えるように促している。ブランドブックを配るにせよ、それを全て覚えさせるというよりも、「何かひっかかるものがあるはずだから、それを1つでも2つでもいいから気にして仕事をしてみよう。それを実践してみよう」と声をかけている。
地域にとってなくてはならない存在になるために。
獅子が我が子を千尋の谷に突き落とすのではなく、我が子たちと共に熱く語りながら谷を越えて高い丘から空を見上げるために、若獅子の奮闘は今日も続いている。

(取材 / 2012年5月18日)

はるやま商事 株式会社

本社所在地 〒700-0822 岡山県岡山市北区表町1-2-3
設立 1974年11月
資本金 39億9136万円
従業員 1287名(嘱託社員を含む)
店舗数 373店舗(2011年3月31日現在)
ホームページ http://www.haruyama.co.jp/

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