巻頭企画 天馬空を行く

 

商社時代に触れた
先輩の夢がきっかけに

立教大学在学中、伊藤忠商事(株)による社会人講座に出席した治山氏は、いわゆる「商社マン」の型破りな仕事ぶりを聞いているうち、強い憧れを抱くようになった。出張先で海賊に遭遇したり、起死回生の大逆転劇でビッグビジネスをまとめたり。当時の商社は、インスタントラーメンからミサイルまで、「何でもあり」の豪胆な商売をしており、治山氏は男のロマンに惹かれるように伊藤忠商事(株)へと入社した。自身の希望もあって繊維部門へ配属された治山氏は、絵に描いたようなモーレツ社員として働いたという。

「今でこそ時効ですけど、先輩たちと一緒に無茶な働き方をしたもんですね。でも、そこには夢があった。先輩も同僚も、自分がやりたいことをきちんと持っていて、だから働くことが楽しかった。その夢は、自分の夢でもありますが、社会の夢、世の中の夢と言うのかな」

ある日先輩と飲んでいた治山氏は、先輩社員にこんなことを言われたという。「治山、俺の夢はな、東南アジアにでっかい工場を作ることなんだ。貧困で苦労している人たちのところに、工場1つあれば、彼らが働く場所ができる。彼らの家族も生活が変わってくる。何万人も幸せにできるんだ」

「とにかくその先輩は熱く語っていて、何度も何度もその話を聞かされて。聞いているうちに、ふと親父の話を思い出した。親父は岡山で地域の人たちのために深夜でも店を開けた。あの夫婦は悲しみの中でも少し晴れやかになっていたのが子ども心にも分かった。今、先輩が言っていることも、親父がやっていたように、地域の人たちのためになることなんだなって」

父が培ってきた
起業家魂の遺産

こうした中で治山氏の「お客様に愛され続けるインフラ商品を手がける」という構想は、着実に形になりつつあった。それが花開くきっかけとなったのは、はるやま商事(株)が大阪証券取引所で第2部上場を果たしたことだろう。1994年、はるやま商事(株)は念願だった上場を果たすため、伊藤忠商事(株)から治山氏を呼び戻し、まさに戦乱の如く準備に追われていた。上場申請の最終コーナー、マラソンで言えば最後の周回トラックに突入するかどうかという局面だ。最終審査面接に臨んだのは、先代を筆頭に治山氏や経理担当常務など企業の中核をなす数名。「これでダメになることもありますから、心してかかってください」と証券会社の担当者も息を飲む中、専務理事たちが会場に入ってきた。

「ひどく重々しい雰囲気でね、親父は口には出しませんでしたが、それはもう緊張していたと思いますよ。私も心臓が張り裂けそうだった。理事たちが、10人くらいですかね、ずらっと居並んで、こちらを見る。開口一番、何を聞かれるのかと思って、緊張が極限に達した時にこう言われたんです」

── いやあ、治山さんにお会いするのを本当に待っていたんですよ。

「その専務理事のお兄様がたまたま玉野(岡山県玉野市:創業の地)に住んでおられたそうで、『はるやま商事さんにはすごくお世話になってきた』と話していたそうなんですよ。『いまだにウチの兄が言うんですよ、“すごく親切にしてくれたんだ”と。それが懐かしくて、ぜひ一度お話をしてみたかったんですよ、治山さん』。そんな言葉までかけてくださいましてね。そこからはもうほとんど雑談。30分くらい終えたところで、『他に質問は・・・まあ、ありませんよね。はるやま商事さん、よろしいんじゃないでしょうか』とすとんと決めてくださった」

それはまさに、インフラ構想が花咲くきっかけだったと治山氏は回顧する。

「父が地域でやってきたことは間違っていなくて、そういうスタンスが証券取引所にいるような人の耳にも届くことがあるんだと知って、本当に驚いたと共に、自分がやるべきことも、やはり地域に根差した店舗を作ることなんだと考えたんです。当時、父の元で全国的に店舗拡大は進んでいましたが、そこからさらに発展させて全国各地の店が地域と密接に繋がっていくような、“なくてはならない店”を作りたい。玉野の本店のような店を、日本各地に作りたい。そう強く思うようになったんです」

2011年11月にオープンした「HALSUIT東岡山店」の外観及び内観。HALSUIT専属ノコーディネーターが、顧客の採寸からカウンセリング、パーソナルカラーの診断、コーディネートまでを行い、「お客様を引き立てるスーツスタイル」を提案する新しい業態のスーツ専門店だ。2012年5月には赤坂店もオープン。スーツ業界の新しい風として注目を集めている。

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