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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

批判者が多ければ、 支持者も多い

(株)不二ビューティの経営者は名実ともに、たかの社長だ。もちろん、全知全能の存在ではないので、全てにわたって自ら行うわけではない。規模の拡大に合わせて、経理部門に銀行経験者を、不動産部門に同取引経験者を採用し、医学、法律などの専門家を活用してはいるが、最終的な判断は自ら行う体制だ。そのために、現在でも多くの時間を社内で過ごし、机に向かって執務している。

「顧問弁護士の1人が、『経営には本当にバックがいないのですね』と言って、驚いていたくらいです」

話題を集めた、松田聖子さん、沢尻エリカさんのCM起用もたかの社長の発案によるものだった。

従来、CMに出演するタレントは例外なく好イメージの人だった。企業の顔ともなり、企業イメージにつながるからだ。ところが、CM出演が決まった当時、松田さんも沢尻さんもタレント生命が危ぶまれるほどの逆風。新聞、テレビ、雑誌で連日、批判的なニュースが流されていたころだ。

騒動のさなか突如、もたらされたのが「たかの友梨がCM起用!」の報。世間では大いに物議をかもし、話題になったものだった。

CMが流れるにつれて、批判的な意見は影を潜めていき、反対に好意的な意見が増えていった。やがて、形勢は逆転した。ちょうど、それまで封じられていた好意的な意見が飛び出す口火を切ったのが、『たかの友梨のCM』という格好だった。

「応援してくれる人がいればいるだけ、反感を持つ人も多いのです。批判にさらされているということは、それだけ応援してくれる人が多くいるということなのです。松田さんの場合は、結婚して子どもがいて、海外デビューしたいという点に惹かれました。それまで身につけてきたキャリアを結婚や子育てで捨て去ってしまうのは、性の自立とは言えません。結婚しても働きたい、伸びていきたいという気持ちは男性ならむしろ賞賛されることなのに、なぜ女性だけ?私自身がそうですから、女性にも同じ気持ちがあることは理解できます。ただ同じことをしている人が少ないという理由でマスコミから叩かれていたわけです。沢尻さんの場合は、年の離れた男性と結婚し、タレントなのに無愛想に『別に・・・』と言った点が批判されていました。しかし、無愛想になるにはなるだけの理由があるはず。そこを理解しようとはせず、一刀両断に切り捨ててしまうのは解せませんでした。松田さん、沢尻さんとも直接会って事情を伺いましたが、何ら疑問に感じるところはありませんでした。人を思う気持ちも共感できましたので、CM出演をお願いしたのです。また、彼女たちのなかに、私との共通点を見出したということもあったかもしれません」

Gacktさん、宮尾俊太郎さん、米倉涼子さん、はるな愛さん、黒谷友香さん、最近では子役として大ブレイクを果たした芦田愛菜さんをCMキャラクターに起用して話題になった。年齢、性別を問わず好感度の高いタレントもいるが、一部に熱烈なファンがいても、その分、批判的な声が多い人もいる。しかし、いずれも女性からは支持度の高い人ばかりだ。

批判だけを見て判断するのが、従来の男性によるビジネス界であるとするなら、批判の裏側にある支持まで見通して人を起用するのがたかの社長流だ。従来のビジネス界では見過ごされていたニーズを汲み取ったという点で、CMの面でも、たかの社長はパイオニアと言えるのだ。

成功の秘訣は、
強く願い、公言すること

批判の裏側にある支持を大切にする姿勢は、経営も同じだ。

「細かな技術の違いはあっても、エステサロンはたくさんあり、どこでも大きな違いはありません。そのなかで『たかの友梨』を選んでくださっているお客様は、たかの友梨が好きだから、たかの友梨に行けば何かしてもらえるという期待があるから来てくださるのです。たかの友梨を100人嫌いな人がいれば、100人は好きでいてくださいます。全ての人から好かれることはありえません。何も嫌いな人に媚を売ってまで来てもらわなくても、期待してくださるお客様を裏切らないようにしていけばいいのです。シャネルもゲランも効果にはそう変わりはなく、ただ好きか嫌いかの差があるだけです」

好きな顧客を裏切らないで期待に応え続けているうちに、「たかの友梨」という名称が名称を超え、ブランドになる。たかの社長は、「100年企業を目指す」という言葉で、たかの友梨のブランド化を進めていく方針を公言している。

現在、創立34年目。たかの社長が経営者引退後も、人生からの引退後もたかの友梨ビューティクリニックは続く。後継者は親族に限定せず、たかの友梨という事業を理解する人の中から選んでいく予定とのことだ。候補になりそうな人材は、すでに幾人か育っている。

人材育成の場でたかの社長が強調するのは、まず強く願い、願ったことを公言することだ。大勢の人の前で願いを公言すれば、聞いた人は何をしたがっている人かが分かる。フランスに行きたいと公言すれば、それまでは漠然とした存在であったのが、フランスに行きたい人だという目で見るようになる。

「言葉を『吐』くという文字は、口にプラスとマイナスを書きます。これがプラスだけになると・・・願いが『叶』うのです(笑)」

公言すれば、周囲の視線が変わる。周囲の視線が変われば、言動が変わる。言動が変われば、運命が変わり、願いが叶うというわけだ。

公言しても聞き流す人、誤って理解する人はいる。無理やり聞かせることも、誤解されて憤慨する必要もない。ただ、できるなら正しく伝える工夫はしたい。たかの社長はこのような話をするとき、よく孫悟空でお馴染みの三蔵法師を例に出すという。

三蔵法師には特別な能力はなく、ただ祈るだけ。空を飛べる孫悟空、怪力の猪八戒、調整役の沙悟浄は、いわばスペシャリスト。三蔵法師はただ天竺に行きたいと祈り、3人のスペシャリストに公言しただけで、願いを実現した。道中の困難と戦いクリアしたのは、3人のスペシャリストだった。

三蔵法師の能力だけでは、天竺に行くことなど到底不可能だった。しかし、それは3人のスペシャリストだけでも実現はしなかっただろう。天竺行きを実現できたのは、どんなときにも三蔵法師の足は天竺を向いていたからだ。3人のスペシャリストは三蔵法師が好きになって着いて行き、三蔵法師も常に3人のスペシャリストの期待を裏切らず、天竺を目指した。

たかの社長は、経営者やリーダーは、三蔵法師のような存在であるべきだと言う。スペシャリストを束ね、常に目標を伝えていくのが経営者の務めだ。

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