一歩を踏み出したい人へ。挑戦する経営者の声を届けるメディア

Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

引退の準備を着々と進めて

就活生にも人気企業の1つとなり、近年は自転車愛好家の女子学生の応募も格段に増えてきたという。社員には「自転車技士」「自転車安全整備士」の資格の取得を義務付けし、社内教育にも力を入れている。

「自転車を通じて世界の人々に貢献できる企業を目指すという経営理念に賛同して入社してもらったからには、社員にやりがいのある豊かな人生を歩んでほしいと願いますね。10年、20年、30年と当社で働くことによって、いろいろなことを考えたり、感じたりすることによって、その人の人格形成につながっていくわけですから、責任も感じます。またそうならなければ、会社の値打ちもありません。私は仕事も会社もマネーゲームをする場ではないと思ってますから。お金儲けができていっちょあがりでは、仕事じゃない」

ここ10年は次世代に会社を引き継ぐことを念頭に人材を育て、その作業もほぼ完了しているという。

「今まで私が会社を立ち上げて全責任を負ってきたという大きな自負はあるんですけど、会社は私の物という感覚は一切ありません。企業というのはリレー競技と一緒ですから、フルマラソンで私が走り終えたあとに会社が終わるのではなく、次世代にどんどんバトンタッチして、生きながらえていかなくてはいけないものだと思っています」

なんという潔さ。その潔さは下田の経営哲学にもあらわれている。経営者にもっとも必要なことは、“公私混同をしないこと”に尽きると言い切る。

「会社が破綻する原因をたどると、全て公私混同から間違いが起こると言っても過言ではないでしょう。たとえば自分の知り合いを入社させるということも、全権を握る経営者には陥りがちな公私混同です。冷たいと言われようが、公私混同をしないことを自分に課すことが経営者にとって一番重要なことだと私は考えます」

町の小さな自転車店から、業界を代表するトップクラスのリーディングカンパニーへと育ててきた下田の言葉は重く、説得力がある。その後の人生はと質問を向けると、

「悠々自適とは考えてませんけど、また別の人生が待っているのではないかと。今まで社長として、お客さまのため、社員のために大きな責任を背負いやってきましたので、せめて最後は自分のために生きられるんではないかと思っています。引退までの残りあと1年は、できるだけまだ行ったことのない店舗を訪ね歩きたいですね。店舗は私の商売の原点ですから」

大きな達成感と自信に満ちた顔が輝いた。

(取材/2012年1月23日)

株式会社 あさひ(ASAHI CO.,LTD.)

代表者 下田 進
所在地 〒540-0011 大阪府大阪市都島区高倉町 3-11-4
創業 1949年
設立 1975年5月
資本金 20億6135万円(2011年11月20日現在)

座右の銘は?

知恵と勇気で常なる革新自分を動物にたとえると?
猛獣系・・・・・・豹かな(笑)。オフの日は何をする?
1 時間半ぐらいかけてウォーキング、それから家族とゆっくり食事今、興味のある人物は?
大阪市長の橋下徹氏。アグレッシブで無私のまれなる人。注目してます。

スランプ脱出法は?
とにかく早く決着をつける。ケリをつけないと次に進めませんから。決断は早いです。

心の支えは?
「どんなときも山より大きなイノシシは出ない」と言ってくれたオフクロの言葉ですね。商売の師でもあります。

若い経営者にアドバイス
先が見えない五里霧中の時代ですが、勇気をもって、恐れず、小手先ではない努力を続けていると道は拓けてくる。慎重、なおかつ大胆に。

1 2 3