巻頭企画 天馬空を行く

株式会社 良品計画 代表取締役社長 金井 政明


金井 政明
株式会社 良品計画
代表取締役社長
1957年生まれ。1976年、株式会社 西友ストアー長野に入社後、1993年に株式会社 良品計画に転籍。生活雑貨部を率いて、ベッド、テーブル、シェルフなどの住空間アイテムの拡充に成功。それまではシングル向けのイメージが強かった無印良品の住空間アイテムをファミリー層へと拡大し、商品群の開発領域を広げた。また、国内のみで商品開発をする体制から、グローバル視点での商品開発を提唱。海外の優れたプロダクトデザイナーとともに、海外発の新商品開発フローを構築することに成功した。2008年に代表取締役社長兼執行役員に就任して以降は、顧客との対話を重視した新たな企業の取り組みをはかるべく、さまざまなコミュニケーション戦略を打ち出し、多くの支持を集めている。

企業と消費者にとっての明るい未来とは何だろうか。現代社会において世の大半の企業が社会貢献性を訴える。しかし、消費者はその本質を見抜く目を育んできており、装飾されたコンセプトはもはや通じない。圧倒的な広告爆撃による消費啓蒙の時代は終焉を告げ、消費者はメディアを通じ、ドライともいえるほど冷静に取捨選択を行う。
そんな中、厳しい消費者の目にひときわ輝いて見える看板があった。(株)良品計画が展開する「無印良品」だ。創設当時から今に受け継がれた「徹底的に無駄を排除していく」という哲学・概念。無印良品は生活者のライフスタイルの中で、日々の生活に本当に役に立つ品質や価格商品を選ぶという、プライドある購買を提唱し続けてきた。そのスタンスが今、再び高い評価を得ているのはなぜか。ありふれた大義名分で掲げられた世俗的なCSRではなく、消費者に確実に届くコミュニケーション方法で、「本物」として認められるべき真実がありのまま伝わっているからにほかならない。
そんな(株)良品計画に今だからこそ、聞いてみたい。「企業と消費者の、真に理想的な関係はどんなものだと思いますか?」。株式会社 良品計画・代表取締役社長兼執行役員の金井政明氏が語る、近未来の企業のあり方を追う。

日本古来の美意識を商品にのせていく

無印良品のモノづくりには3つのポイントがある。「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」だ。店舗で買い物をしていても、確かにそれを感じることがあり、スタンスに慣れていない人ならば「単なる節約?」と思われるかもしれない。しかし、そこには徹底して無駄を省くことで合理化し、モノ本来の魅力を輝かせるという発想が備わっている。

その魅力とは、「実用性」にほかならない。華美なタオルよりは、使いやすいタオルがいい。装飾だらけのステーショナリーよりは、シンプルで飽きのこないモノがいい─。これは無印良品が掲げる、日本古来の「素」をよしとする美意識から生じているものだ。簡素であることは質素だということではない。個性や嗜好性が求められている市場だからこそ、むしろそれらの要素を排除し、顧客の使い方の余地を残す。購入者と商品との関係性、すなわち「個性」はあくまで、顧客に委ねるという発想だ。これは単なる清貧の思想ではない。簡素さはむしろ美しさとなり、慎ましさは生活者に誇りを促す。30年来、無印良品はこの概念を旗印に歩みを続けてきた。

「1989年に、無印良品を軸に事業化する目的で、良品計画という会社が生まれました。創業当時から思想自体は一貫していまして、それはある意味、お客様と最初に約束した憲法のようなものですので、もちろん思想自体の根底を変えるつもりは全くありません。ただ、時代は変わりゆくものです。本質は変わらなくても、移ろう時代の中でそれをどうやって表現するか。これを私たちはとにかく一生懸命やってきているだけなんです。その表現が、もちろん全て正しいとは言い切れませんが、時には脱線しながら、一生懸命、概念に対してピュアでありたいと願ってきました。しかし、誘惑はとても多かったですね」

30年もの間、企業が1つの概念を維持し続けるのは簡単なことではない。株式市場を意識する必要があれば、さまざまなステークホルダーにビジネス視点で貢献もしないといけないだろう。創業当時の概念にピュアでいようと努力をすれど、時には、安全な道が安全ではなく見え、罠にはまってしまう可能性もある。

「基本的に、アウトプットすることは、きわめてストイックなことなんですよね。無印良品の製品は、色を使わず、売れる顔つきにしないというのが特徴です。でも、ついつい商売的に、短期的に売り上げを作ろうとしたら、媚びて売れる顔つきにしたくなる。これが大きな罠。そういう罠や誘惑がいっぱいあるんですよ(笑)」

無印良品とは一体何なのか?

金井氏はときおり、社内を歩いて、販売責任者や商品開発責任者にこんな質問を投げかける。「無印良品とは何だと思う?」。企業のトップからの、まるで禅問答のような問いかけに社員たちはたじろぐという。だが、それはトップから聞かれたからではない。むしろ、回答が多すぎて困るのだ。そこで金井氏は真逆の質問をする。「では、無印良品じゃないものはどういうものだろう?」。すると、おおよそ一貫した答えが返ってくるという。

「彼らは言いますね。『無印良品じゃないものとは、買ってもらうためにデザインが過剰であったり、高価すぎる商品だ』と。こういう答えは容易く出てくる。『じゃあ、デザインがシンプルで低価格の商品はみんな無印良品かい?』と聞くと『いいえ。高い品質を保ちつつ、その製品をつくるにあたっての生産者・環境への配慮あるものだ』と誘導できるんですね。ということは、無印良品は華美なデザインがなく、しかも必要な品質を盛り込んでいる、言ってみれば極めて一般的で普通のモノを作ろうとしているんです」

自分のモノを売りたい、目立たなくてはいけない、違いを出さなくてはいけない、というモノがあふれている現代。徐々に消費社会の圧力が増し、売るために商品に付加される要素が多くなっていく。シンプルで一般的で普通のモノがなくなるということを、金井氏は「日本人らしさの喪失」と考えている。

「例えば、海外の人たちと会議を行ったとしましょう。彼らは今まで口をそろえて『日本人はイエス・ノーを言わないね』と言ってきました。つまり、何を考えているか分からない、ということです。最近は、主張する日本人もいるでしょうが、そもそも民族としての成り立ちが違いますから、日本人らしい発想を海外の人たちは持てないんですよ」

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