巻頭企画 天馬空を行く

「世界にまだないやり方を」


▲ 所属選手を指導する小出。佐倉アスリート倶楽部では、企業の枠を越えて選手を育成する独自の体制を採っている

小出が地元である千葉県・佐倉市に設立した佐倉アスリート倶楽部(株)では、様々な企業から陸上選手を受け入れている。この形式は小出がかねてより温めていた、これからの陸上界、ひいてはスポーツ界全体に一石を投じる試みである。

──佐倉アスリート倶楽部をつくったのは、僕が60歳を過ぎてから。普通の企業ならもう定年間近なんだけど、僕は陸上が好きだから、一生陸上に関わっていきたいと思っていた。ただ、世の中はその頃から不況不況って言われてて、企業も陸上部を縮小させたり、新しく陸上部を持ったりすることに二の足を踏むところも多かったんだ。陸上部を持つには、選手やコーチはもちろん、設備にかかるお金だって馬鹿にはならない。そこで考えたのが、ウチで設備を用意し、企業からコーチ料をもらって選手を預かるっていう、世界にまだなかった陸上のクラブ制度。それがこの佐倉アスリート倶楽部だったんだ。陸上に力は入れたいけど、そんなにお金はかけられない。そんな会社から少しのお金を頂いて、選手を預かる。企業からしたら、預けるのは3人でも5人でもいい。予算もあるだろうからね。その中で、ウチは預かった選手を強くする。今は2社から選手を預かっているけど、他の会社からも引き合いがきてるよ、「うちの選手をお願いしたい」って。これからの時代に合ったやり方だと思うよ。面白いでしょ?

小出はこれからのマラソンの普及・発展を考え、自身の理想を具現化するべく佐倉アスリート倶楽部(株)をつくった。また、今や国民的イベントとなった東京マラソンの開催も、小出が時の東京都知事・石原慎太郎氏に対して案を出し、掛け合ったことがきっかけの1つになっている。どちらも、難しいと思われる課題に対して真摯に取り組んで方法を考え抜き、成功への筋道を描いて実現させたものだ。できると信じ、考える。前項でも触れた「考えること」の大切さを、小出は体現し続けている。

「体験こそが、人を成長させる」

小出門下生の1人に、昨冬の大会で優勝を飾るなどの実績を残しているランナーがいる。しかし、彼女は大会前に陸上に挫折し、小出の下を離れた時期があったという。小出はいかにして彼女を立ち直らせたのだろうか。

──僕は選手が「辞めたい」と言ってきたときに引き留めたりはしない。だって自分の人生だからね。基本的に人間ってわがままな動物だから、「自分が一番正しい」って思っている時は、何を言っても聞きやしないんだよ。だからそういう時に「辞めたい」って言ってきたら「どうぞ」って言っちゃう。でも、そういう選手は大抵うまくいかないんだ。僕の下を離れて自分自身でやってみて、初めて見えてくることがある。練習メニューや調整法もそうだけど、1人でやるとなったら日々の生活費も稼がなきゃいけないし、何もかもを自分でやらなくちゃいけない。それはわかってるんだけど、言わない。言っても理解してもらえないからね。理解するには自分で実際に体験してみるのが一番なんだ。
出ていった選手の中には、自分でいろんな経験をして、それからまた僕のところに来る子もいる。「またやらせてください」って。中にはそういう選手を受け入れない指導者もいるかもしれないけど、僕は受け入れるよ。人間、若い時はものを知らないし、失敗することは絶対にある。人間は失敗を繰り返しながら進んでいく時期もあるんだ。結果が出て有頂天になって出ていって、失敗して、それでもまた戻ってくる。そういう経験をしてきた子は強いよ。やる気だってすごくある。その気持ちを汲んでチャンスをあげたら、本人も前より真剣に陸上に取り組んで、もっとすごい結果を出してくれるんだ。

ともすれば、小出の言葉は冷たく聞こえるのかもしれない。しかし、何事においても最後に決断をするのは個人。その個人がアドバイスに聞く耳を持たなければ、言えば言うだけ逆効果だ。小出はそれを理解しているからこそ、経験することを何よりも大事にしている。

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