巻頭企画 天馬空を行く

ワタミ株式会社 代表取締役会長・CEO 渡邉 美樹氏「『しなければいけない』ではなく、『したくなる』のです」と語る渡邉氏は、さらにこう続ける。「人間なんて、そう強くはない。『やらなければいけない』という外部からの強制では、長く続けられないでしょう」

イメージを、「したい」という強い欲求にまで押し上げることによって、自らの行動に道をつける。渡邉氏のこれまでの人生は、すべてその積み重ねによって形成された。

経営者になろうと決めたのは小学5年生のとき。最愛の母を亡くし、さらに経営に失敗して事業を畳んだ父を見て固めた決意だった。夢と呼ぶには、あまりにも過酷な現実から生まれたその決意は、しかしやはり、渡邉氏の夢の始まりだった。以来、どんな経営者になりたいのか、事業として何を扱うのか、道を模索し続ける。そして自らのイメージにより鮮明な色づけをすべく、大学時代には日本一周の旅を経験。その後は北半球をめぐる。アジア、旧ソ連、東欧諸国、そしてアメリカと歩き回る中で、目に映った景色や人との出会いなど、感性に響いたすべてがイメージに鮮やかさと緻密さを加えていった。

こういった大きなビジョンに加え、「今日一日をどう過ごすか」といった卑近なことについても必ずイメージする。例えば、何か新しいことを提案する経営会議の前。渡邉氏は、必ず会議の進行をシミュレーションするという。提案が巻き起こすであろう社員の反応、議論、予想できる反論と、それに対する抗弁、そのタイミング…できる限り想像することで、実戦への体勢をとるのだ。本番をいわばシミュレーションするというこのイメージ力は、不測の事態が起こりがちな現実への対処能力を上げ、到達地点とのずれに対応する柔軟な思考と行動力を培ってくれる。

「人生は、イメージの通りになっていく。私は常にそう思っています。これは、今までの自分の人生から得た確信です」

ただ当然、イメージを実現するためには、現実とイメージとを結ぶ道筋が必要となる。その道筋は、イメージを具体化するための日々の行動から生まれる。渡邉氏独自の哲学として、あまりにも有名な言葉、 「夢に日付を」。これは、現実とイメージをつなげるための具体的な方法論だ。

 渡邉 美樹氏の手帳「まず、夢の到達点を明確に定めます。 何年後のこの日までにここに辿りつくぞ、と。具体的な映像が頭の中で描け、期限が定まれば、自分に何が足りないのかが見えてきます。そこで到達地点から今現在までの日数を換算する。そうすると、どの時期に何をすべきかが分かってきます。5年後に達成したいのなら、5分の1である今年1年は何をすべきか。さらに今月は何をすべきか。そして1週間、1日と、日数を細分化し、実際の行動計画を組み立てるのです」と、渡邉氏。氏は、そうして
渡邉氏の手帳の過去のページ。びっしりと書き込まれた 予定は、終わったものから赤く塗り潰されていく。
明確にした行動計画を、すべて手帳に書き込んでいる。驚くことに、細かく書き込まれた日ごとの予定は、1年後までびっしりと詰まっている。終わった予定は赤線で消す。氏の手帳の過去のページは、達成の印である赤色で埋めつくされている。

夢を掲げ、イメージし、その実現に向かって前進する過程は、個人でも会社組織でも同じだと、渡邉氏は言う。

「断言しますが、組織というのはトップで99%決まります。なぜか?それは、組織の進む方向をイメージするのは、常にトップだからです」

トップ、つまり経営者が決めたミッションを到達地点として、企業全体の経営戦略と行動計画が決まっていく。ミッションは、常に企業体として目指すべき方向、企業の存在意義を具体化したものであるはずだ。旗を振るのは経営者。だからこそ、「すべてはトップで決まる」と渡邉氏は言う。氏が自らの事業の方針を明確に定めたのは、26歳のことだ。

24歳で起業し、居酒屋「つぼ八」のFC店オーナーとして事業をスタートした渡邉氏は、それまでの居酒屋の常識を次々と覆し、「異常」とも思えるサービスを徹底することで、店の売上を不動のものにしていく。懸命に走り続けて2年。いつしか、自らが一区切りの目標としていた「1億円の年収」を手にするようになった。ようやく辿り着いたゴール。だが、渡邉氏には思ったほどの達成感はなかったという。念願だった家や車を買っても満足感を覚えないどころか、自分のために金を使うことがどこか後ろめたい…。「どうしてだろう」と自分と向き合ったとき、ふいに氏の胸に一つの疑問が湧き上がる。「自分が事業を興し、会社の成長のために頑張ってきたのは何のためだったのか」と。自問自答を繰り返し、辿りついた答えは「お客さまの『ありがとう』を集めるため」だった。

創業当時の日記には、「謙虚なれ、常に謙虚なれ」と書き殴られている。お客さまの「ありがとう」を得るためにはどうすればいいか、模索し続けた道程での自戒の言葉だ。今得ているお金は「ありがとう」を集めるための手段に過ぎなかった─そう気づいたとき、その後の企業形成の骨子、進むべき方向への指針が明らかになった。「地球上で一番たくさんのありがとうを集めるグループになろう」。ワタミの最大の目標は、このときに生まれた。

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