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俳優 松村 雄基
高校在学中にテレビドラマで芸能界デビューを果たした俳優の松村雄基さん。1980年代から数多くのドラマや舞台に出演し、30歳で本格的に学び始めた書道では、第17回東京書作展(東京新聞社主催)にて内閣総理大臣賞を受賞するほどの腕前を持つ。俳優業と並行して、書家・剣舞家としても活躍する松村さんに、仕事への向き合い方から、独自の人生論という深い部分にまで迫ったインタビュー。

インタビュー・文・編集:カンパニータンク編集部

 
役者の道へ導いた最愛の祖母

──テレビや映画、舞台などで活躍する役者という華々しい職業。松村さんは子どもの頃から役者を目指されていたのですか?

 もともと特に役者を志望していたわけではなくて、中学生の頃は中国語の通訳者になるのが夢だったんです。NHKの中国語講座で勉強をしていて、大学に進学して中国語を学びたいと思っていました。その中で、中学3年生の時に芸能事務所の社長にスカウトされたのですが、正直なところ、僕自身はあまり乗り気ではなくて・・・。ただ、祖母が社長の人間性に感銘を受けて熱心に勧めてくれたので、「そこまで言うならやってみようかな」という気持ちになったんです。祖母は僕を幼い頃からずっと育ててくれていて、祖母の言うことなら何でも聞きたくなるくらい、僕にとって特別な存在だったんですよ。
 
演じることに向き合った10代

──お祖母様の後押しがあって、芸能界に入られたのですね。具体的には、役者としての活動をどのようにスタートされたのでしょう。

 スカウトされてから、まずは「劇団俳小」という新劇の劇団のタレント育成科に入りました。その中で、2年くらいは即興劇をしたり、稽古場にお客様を入れて行うアトリエ公演をしたりと、俳優としての基礎を学びましたね。

──そういった下積み期間を経て辿り着いたデビュー作についてもお聞かせください。

 私のデビュー作は、高校2年生の時に出演した「生徒諸君!」という連ドラでした。しかし、舞台での芝居経験はあったものの映像作品は初めてで、毎日怒られてばかり。そんな中、高校生活と俳優業という多忙な日々で眠くなり、撮影中に大あくびをしてしまったことがあって・・・。監督に「カメラの前であくびをするなら役者を10年やってからにしろ!」と怒られたんです。正直その頃はまだ子どもで、役者がして良いことと悪いことの分別がついていなかったのですが、それでも厳しく言われた言葉は、やはり心に響くもの。この時期に叩き込まれた役者としての心構えは、今でも生きているんですよ。

──愛情がありつつも厳しい指導の中で、「辛いからもう辞めたい」とは思わなかったのですか?

 当時、僕は役者をやっていることについて、冷静に見ていたところがありました。「役者として絶対に成功するんだ」というモチベーションも、役者という職業への執着心もなく、「合わないなら辞めてもいいかな」と思っていたんです。でも、撮影の中で監督からOKをもらえた時はとても嬉しくて。一方で、監督に怒られるのは悔しいから、できるようになりたい。その一心で、演技についての指摘をきちんと聞いて、どうすれば改善できるかを考え、努力を重ねてきました。
 
役に入り込むという原体験

──俳優という職業と、絶妙な距離感で対峙してこられたのですね。これまでに数多くの作品に出演されてきた松村さんですが、中でも印象に残っている作品のエピソードはありますか?

 18歳の頃に「ぼくらの時代」という連ドラに出演したんです。僕は高校生の役で、不良にいじめられて暴力を振るわれているところを先生が体を張って守ってくれて、最後は抱きしめてくれるというシーンがあって。本番の前に3回テストをするのですが、その時から、先生が助けてくれる時、役に入り込んで台本にはないのに嗚咽が止まらないほどに号泣してしまったんです。それが、役者としての原体験になっています。

──そういった時の感情というのは、役者さん特有のものでしょうね。どうしてそのような気持ちになったのだと思われますか?

 先生の優しさや、恐怖から開放されたことによる安堵感といった、いろいろな感情が一気に溢れ出てきたんだと思います。その時、監督に「今の感情を忘れるな」と言われたことを覚えていて。当時は何のことか分からなかったのですが、今となっては、「心が動いた時の感覚を忘れるな」という意味だったんだなと。そのために、役への思い入れを深く持つようにしていますし、それが役者の醍醐味なのだと思うようになりました。この体験がなかったら、もしかすると今まで役者を続けてこられなかったかもしれないです。役者として目指す演技の理想形が明確になった瞬間でした。

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