インタビュー

卸・販売

「今」と一生懸命に向き合う

名高 鈴木社長は、商社の経営者として日々移り変わる情勢を最前線で感じていらっしゃると思います。コロナ禍を含め、今の激動の時代についてどのように考えていらっしゃるのでしょうか?

鈴木 名高さんがおっしゃる通り、今はさまざまな状況が秒単位で変わるような世の中になりました。明日がどうなっているかも見えない――そんな中で私が心掛けているのは、景気の動向や情勢の変化に対して一喜一憂しないことです。時代の流れに合わせて柔軟な姿勢で自分の役割を全うし、今、目の前にある仕事を一生懸命にこなしていくことが、結果的に事業を成長させる一番の近道になると思っています。

名高 なるほど。時代に即した柔軟性と、ぶれない信念、その両方を持っていることが重要になってくる、と。

鈴木 はい。例えば近年はEC業界が急速に成長しており、同じ商品を安く出品されると商社にとっては厳しい状況になるのですが、当社は品質を低下させることなく納品のスピードを高めることで、取引先企業様との信頼関係を維持しています。一貫した製品・サービスを提供する工夫を随所で行っているため、品質面では絶対の自信があるんです。

愛情と信頼を大切に歩む

名高 ここまでお話をうかがっていて、鈴木社長が事業における人との縁やつながりをいかに大切にしていらっしゃるかが伝わってきます。その辺りの哲学についてお聞きしてもよろしいですか?

鈴木 私は、すべての物事を進めるうえで最も重要なのは「愛情」と「信頼」であると思っています。そして、それらは人と人とのコミュニケーションの中で育まれていくものです。しかし近年、デジタル化が進み過ぎたためかそのコミュニケーションが希薄になり、「何でも白黒つけ過ぎではないか」という違和感を覚えることも増えてきました。例えば、コロナ禍によって増えたリモートワークやリモート会議。これらはデジタルの進歩で実現した便利なツールですが、急激にそれを推進したことによって多くの人からコミュニケーション能力が失われていっていると感じます。また、YouTubeなどの動画サイトでは各分野専門家が有用な情報を発信されていて、以前より簡単に知識を得られるようになった一方、知り過ぎることによってアクションを起こす腰が重くなっているようです。「結婚や出産はリスクがあるからしなくていい」という考え方が広まりつつあるのもその影響だと思います。

名高 何事も極端になり過ぎているという点について、鈴木社長は危機感を抱いていらっしゃるのですね。

鈴木 はい。ビジネスにおいても「勝ち組・負け組」という言葉を気にしている人をよく見かけますが、本来世の中は丸く循環させるべきものであり、誰が勝った、負けたではなく、皆でうまく回していけばよいのです。私が主に携わっている自動車業界では今、「ガソリン車か電気自動車か」という議論が展開されています。しかし、それもどちらかに傾ければよいという話ではありません。自動車は約3万点のパーツでできていて、その背景には同じ数の企業と、社員たちがいる――電気自動車が普及しようと、その人たちの雇用は守られなければならないですし、そうしたところに考えを巡らせるのが「愛情」だと思うんです。

名高 鈴木社長の温かみのある感性にはとても共感します。そのように物事を広い視野で見られる資質は、どのようにして磨かれたのでしょうか?

鈴木 10代の時にブラジルで生活したことが、自分の中では大きな財産になったと思っています。日本と比べてずっと貧しく不便な環境で試行錯誤をしてきた経験があるからこそ、豊かになり過ぎることの危険性というか、それによって見えなくなるものがあることに気が付けるのではないかな、と。デジタル化もその中の1つで、例えば電波が飛び交い過ぎると、それまで聞こえていた生き物の声、地球の声、万物の声が聞き取りにくくなると思うんですよ。そういうところに一人ひとりが意識を傾け、先祖が愛情と信頼を積み重ねて築いてきた文化を大切にすれば、世の中はもっと平和でより良い方向へ進んでいくと信じています。

名高 デジタルネイティブと呼ばれる若い世代の人たちにも、鈴木社長のそうした考え方は伝えていってほしいです。

鈴木 そうですね。今の子どもたちはコミュニケーションがデジタル端末越しになるのが当たり前で、そのうえコロナ禍で常時マスクをしているため思うように言葉を発することも難しい状況にあります。だからこそ、面と向かって言葉を交わし、愛情・信頼を育む時間を大切にしてもらいたいですね。また、現実思考になり過ぎず、夢に向かってどん欲に生きてもらいたいなと思います。

名高 これからも、鈴木社長が事業を通してご自身の哲学を体現していかれることを期待しています。最後に会社としてのビジョンもお聞かせください。

鈴木 ありがとうございます。これからの日本は、自動車業界のみならず製造業全体を盛り上げていく必要があると思います。その中で当社は、今後も日本のものづくりを大事にしながら、製造業の方々の背中を押し、商社として消費者との橋渡しをすることに尽力するつもりです。その中で愛情と信頼の大切さを伝えられれば、それ以上の理想はありません。

GUEST COMMENT

名高 達男

右目の視力とサッカー選手の夢を同時に失いながらも、再び立ち上がられて世の中のために奮闘されている鈴木社長。想像もつかない苦労を経験される中で、他者への深い愛情を育んできたことがよく伝わってきました。今、お金儲けのことだけを考えて動く人も多い中、社員の将来、お客さんの幸せ、そして日本や地球の未来のことまで見据えて事業を展開されている社長の存在は本当に貴重だと思いますし、さまざまな物事が転換する時代だからこそ、社長の力で世の中を明るくしていただきたいですね。

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