インタビュー

スペシャリスト

経済アナリスト 森永 卓郎 SPECIAL VOICE

東京都出身。東京大学経済学部を卒業後は日本専売公社(現:日本たばこ産業株式会社)に就職、日本経済研究センターや経済企画庁への出向を経て、1990年代半ばからは「経済アナリスト」として経済評論家・コメンテーターなどの活動を開始する。現在ではテレビやラジオ、著書執筆など幅広く活躍、2013年6月には自身のメールマガジン「超格差社会の時代」を創刊した。また、様々なグッズをコレクションしていることでも知られ、現在収集しているグッズは「60ジャンル」とのこと。
公式サイト
URL http://morinaga-takuro.com/


 

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「アベノミクス」の行く先

―2012年11月の衆議院解散、そして12月の自民党・安倍政権誕生以降、日本の経済は大きな転換期を迎えています。一時は80円を下回った対ドルレートは100円に迫るほど円安が進み、日経平均株価も回復傾向にあります。

森永 まず、私は現状が円安だとは全く思っていません。2008年のリーマンショック前の相場は、概ね1ドル100〜130円でした。その頃が正常であって、近年の為替相場というのははっきり言って異常だったんです。現状は、日本経済が破綻をきたすレベルの円高がようやく改善されつつあるといったところでしょう。ただ、現在の日本政府が掲げている「デフレ脱却」は、1ドル120円くらいにならないと実現は難しいと感じています。
そもそも、なぜ円高が進んだのか。リーマンショック以降、アメリカやヨーロッパではお金の量を2〜3倍、多いところでは5倍に増やしました。しかし日本はその動きに乗らず、お金を増やすことをしなかった。これが円高を招く要因でした。しかしその方針は安倍政権誕生によって転換され、今後は2年間で2倍くらいの量に増やす金融緩和を進めていくことになります。

―円が安くなることによってメリットを受ける企業もあれば、デメリットを被る企業もあります。特に製造業などは資材を輸入しているケースが多いと思うのですが、そうした業界を含めて中小企業にはどのような影響があるとお考えでしょうか。

森永 このまま安倍政権が続いていけば、かつての小泉内閣と同じことが起こると思っています。小泉内閣では、株価は5年で2倍になり、景気は確かによくなりました。しかしその中身はというと、大企業の役員報酬は2倍、企業の内部留保は1.5倍、企業が支払う配当金は3倍になりましたが、一方でサラリーマンや中小企業の経営者の報酬は下がっています。つまり、富裕層とそうでない層の格差が広がったということです。安倍政権が取り組む「アベノミクス」は、景気対策としては正しい政策であり、確かに経済のパイは大きくなるでしょう。しかし、その分配は必ずしも一定ではなく、既に儲かっている人がさらに儲けるだけ、という状況が予想できます。
円安の恩恵という意味では、特に中小の製造業については良い影響のある会社も確かにあるでしょう。輸出企業からの発注が増えるでしょうしね。しかし大企業のコストカットのしわ寄せが末端にきている以上、それが収益に反映されるかというと、なかなかそうはならないのではないかと思います。

これからの中小企業に問われるものとは

―そのような状況下にあって、中小企業は今後どのような動きをとるべきなのでしょうか。

森永 基本的にやらなくてはいけないことは、たった1つ。それは、価格競争に巻き込まれない会社になることです。日本の電気産業を例にとりますと、家電製品はグローバルな価格競争での叩き合いを強いられていますが、発電機や電動機、変圧器といった発送電を担う電気設備、いわゆる「重電」の分野に入り込んだ企業はきちんと利益を確保できています。なかなかライバルが参入しづらい業界ですからね。

―では、価格競争に巻き込まれないようにするためにはどうしたらよいのでしょうか。

森永 行政との関係を密にして、入札ではなく随意契約で仕事を受注していくという方法もありますが、一番いいのは、価格競争にならないようなマニアックな市場に入り込むことでしょうね。

―マニアック、とは?

森永 1つは、富裕層に向けて超高品質の製品を作ること。自動車のフェラーリなどを挙げれば分かりやすいでしょう。中小企業でありながら、世界的ブランドを生み出す。私はミニカー集めが趣味なのですが、例えばイタリアにあるミニカーの工房は、自身の愛車の写真を送ると、それと全く同じミニカーを作ってくれるのです。それも、真鍮を叩き出すところからハンドメイドで。年間で生産できるのは4台、1台500万円以上の値段がかかるのですが、もう何年も注文待ちの状態が続いています。
もう1つは、いわゆる「オタク」層をターゲットにすることです。私がかつて取材した中に、人形の服をオーダーメイドで作っているところがありました。家族経営でネット販売のみの展開ですが、年商は1億円を優に超えます。フィギュアで有名な(株)海洋堂さんなどもニッチなニーズに応えて成長した例ですね。
また、現代美術家の村上隆氏は、もともとアキバ系のフィギュア作家でした。当時の彼の作品の価値は等身大スケールでも30万円ほどだったのですが、アメリカのオークション会社で数千万円で落札されて以来、彼の作品はどんどん値段が上がり、今や10億円以上の価格で取引されています。彼は、自身の作品をそれまでのマニアルートではなく、美術品として展開をすることで、今日の評価を得ることに成功したのです。このように、自分の技術がどんな分野で商売になるかを考えることは、コスト削減よりもよほど大切なことだと思います。

―そのような技術を突き詰めていけば、他の会社も追随できないでしょうね。
森永 かと言って、急激にその方向にシフトチェンジをするのは難しいでしょう。日々の仕事はしっかりとこなしながら、新しい道を模索していく。少しずつでも前進をしていかなければ、状況の打破には辿りつきません。それと、付加価値商品というものは基本的にはアートです。アートには技術と芸術という2つの意味があり、それらが融合することで初めて人々をドキドキワクワク、楽しませるものが出来上がるのです。

―誰かを楽しませるためには、何よりも自分自身が楽しまないといけないとも思います。

森永 アートは、相手を感動させる能力です。誰かに感動を与えるためには、まずは自分自身がドキドキワクワクしていないといけないですよね。そして、マニアックな市場に進出するためには、まずは自身がマニアにならないといけない。マニアにしか分からない世界というものはどのジャンルにもありますし、そこに入り込んでいかないといけませんよね。
それと、今の日本では地域なり会社なりで素晴らしい技術を持っているところはすごく多いと思うんですよ。ただ、そういうところは古いやり方や考えが根付いていて、新しいチャレンジには及び腰になりがち。そこで思い切った動きができれば、また新しいことができるのではないかと思います。

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