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コラム

企業経営の黄色信号が灯った時―その際の注意点

どんなに順風満帆な企業であっても、将来事業の業績を悪化させていく可能性のある要因は必ず存在するもの。それらは経済、マーケット、地政学的なことなど外部の事象に起因するものと、各企業の内部に原因があるものとに大別できる。この連載では、内部的な要因で企業業績を将来悪化させていく可能性のある事象を、「企業経営の黄色信号」と呼んでいく。それを踏まえて、「CONCERTO」の代表で経営アドバイザーの荻野好正氏が、定性的な面と財務的な面からのアプローチで、経営者として気を付けるべきことや、いかに企業の「黄色信号」を認識していくべきかについて解説する。第4回は、組織や人事に関連する黄色信号について論を展開していく。

早いもので、当連載も今回が4回目です。引き続きお読みいただいている皆様、ありがとうございます。今回は、社内のコミュニケーション、組織、人事に関連する黄色信号についてお話しいたします。

社内のコミュニケーション

経営者が考えていることが、メッセージを送ってもうまく伝わらない、現場できちんと理解されない。中間管理職に伝えているが、現場には正確な内容が伝わっていない―会社規模の大小に関わらず、ほとんどの経営者がこの種の悩みを持っておられるといっても過言ではないと思います。

中長期の事業計画をつくって全社員に説明をしても、「数字の押し付けだ」とか「現場の苦労がわかっていない」など、意図したこととはまったく違った反応が出てくるというのもよくある現象です。逆に、現場の声が経営トップにまったく届いていない、曲解されて届くなどもままあります。

このように、会社方針に関することなど重要な事柄の理解が社内の階層ごとに違っているというのは、企業経営の黄色信号の1つです。

正直言って、この黄色信号を脱却するための確実な解決策はありません。経営者が全社員とのコミュニケーションを取るための努力を惜しまない。これに尽きます。大きな会社でも年に何度か全社員を一堂に集めて方針の伝達などを行っているところもありますし、全社員を対象にしてリモートの月次社員集会を開催したり、いくつかの小さなグループに分けて経営トップがひざ詰めで語りかけたり、ビデオメッセージを流したりするなど、皆さん尽力されておられます。ただ、一番効果のあるコミュニケーションは経営トップが現場に行って元気な顔を見せて、短時間でもいいから声をかけてみることだと思います。そうすることによって、現場の声も少しずつ吸い上げられるのです。

誕生月の社員を集めて小さなグループでランチをするとか、お茶を飲む会を開くとか、このような草の根的なコミュニケーションを考えられてはいかがでしょうか。経営トップは「雲の上の人」といったようなイメージを持たれないようにすることが肝要です。

経営状況の社員への伝達

上場企業であれば、情報開示がかなり要求されてきますが、非上場の企業であれば経営状況が外部に開示されるということもありません。社員も何も聞かされないということになっていませんか?中間管理職から、「会社は大変だ」といった断片的なニュースが流れているだけ、ということもしばしばあります。右肩上がりで順調な時も、厳しい状況にある時も、社員は会社が今どのような状況にあるのかということをきちんと理解していたいという欲求はあるもの。会社の状況を何も聞かされずに、ボーナスがたくさん払われたからといって喜んだり、減額されたら「どうして?」と漠然と思ったり。やはり経営トップから会社の現在の経営状況をきちんと伝えることがとても重要になります。何も「危機感」をあおるというわけではなく、社内に「緊張感」を持って仕事してもらうことが大切なのです。

もちろん、会社として話せないことはあるわけですから、それはそれとして理解をしてもらうことが重要です。このような努力がなされずに、秘密主義を通しているような状況があれば、それは「黄色信号」。

人事・組織上の問題

経営者の朝令暮改の決断の変更は、当然、あってしかるべきだと思います。ただ、組織改編、人事異動についてはあまりお勧めできません。これらは熟慮に熟慮を重ねて決定し、実行すべきです。あまりに短期間での組織改編を繰り返すと、社員が白けてしまうこともさることながら、組織に対する責任が曖昧になり、無責任な組織運営になってしまうことがままあります。期中でどうしても組織を大きく変える必要があるとしても、少し我慢して、待てるものならその決算期が終わってから実施するのがよいでしょう。

人事異動も、あまりに頻繁な移動は考えものです。せっかく新しい部署で責任者を拝命して張り切っていたら、半年もしないうちに移動させられたなどということになると、本人のモチベーションもさることながら、周りが見る目が「この会社はどうなっているんだろう」、「次は自分にも同じことが起こるのでは?」といった疑問を持ち始めることになると思います。

組織改編、人事異動ともにあまりに唐突にかつ頻繁に起こるようになればこれも黄色信号です。

ガバナンス・コンプライアンス

最近、新聞などでも「コーポレートガバナンス」という言葉がよく出てきます。「企業統治」などと訳されて、いかにもいかめしい言葉です。上場企業の場合(多くの株主がいる場合)には複雑なことになりますが、単純にガバナンスというと、「会社の中で何か決定をする際のルールがきちんとできていますか?」「ルールが社員全員に周知されていますか?」「ルールがきちんと守られていますか?」という3つに集約されると思います。この3点の1つでも実行されていないということなら、これは黄色信号です。

いろいろな会社にお邪魔して聞いてみると、よくあるのは、ルールはきちんと文書化されているが、社員の中でそのルールの存在すら知らない人がいるとか、ルールは知っているが面倒だからそのまま守らずに物事が進んでいる、といったことです。せっかくのルールが埃をかぶっている、ということになっていませんか?

「コンプライアンス」という言葉もよく耳にしますが、もちろん法令順守がまず第一歩。その次に、社内のルールの順守。社員全員が社内ルールをきちんと守ろうという文化ができているか、これが良い企業風土確立の第一歩であると認識してください。

次回の第5回および最終回では、財務数値の計数的な面から企業の黄色信号を見ていくことにします。

■著者プロフィール
荻野 好正

おぎの よしまさ / 大阪府出身。伊藤忠商事(株)にて30年間勤務、曙ブレーキ工業(株)で15年間の役員勤務を経験。その後、海外を含む企業勤務・経営を通じて得られた企業経営のノウハウを中小企業、スタートアップの企業経営者に伝授することを目的に、企業経営者へのアドバイザリー業務を「CONCERTO」(個人事業)として立ち上げた。中小企業、ベンチャー企業の強化こそが日本経済を立て直す原動力になると信じる。静岡大学工学修士、米国シカゴ大学MBA。
 
CONCERTO
〒100-0005
東京都千代田区丸の内2-2-1岸本ビルヂング6F
https://c-concerto.com/

 
 

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