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コラム

海外ビジネスの指南役! 小田切社長の連載コラム.10

「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第10回は、インド人についてお話しします。

はじめに

皆様、こんにちは。(株)サザンクロスの小田切武弘です。本誌の2020年9月号から、海外でビジネスを進める際の現地ローカルスタッフへの接し方や、スムーズなコミュニケーションの取り方などにフォーカスしたコラムを連載しております。さて今回からは、多くの日本人駐在員を派遣しているインドでビジネスを行うポイントについて2号にわたってお話を進めていきます。

外務省ホームページ「海外在留邦人数調査統計」2020年調査統計によると、10月1日現在でインドに在留している邦人は永住者を含め約9200人。インドに進出している日系企業の拠点数は4948拠点。インドは日本の約9倍の国土に約14億人が暮らし、人口の約72%はアーリア系、25%はトラヴィダ系民族ですが、その他いくつかの民族を含め長く混血が行われてきました。インド全土では約800に及ぶ地域言語が話されており、同じインド人同士でも言葉が通じないことがあります。インドでは大手、外資を含む多くの企業が商都ムンバイ、首都ニューデリー、IT関連企業が多く集まるデカン高原のベンガルール、インド東部コルカタ州の州都コルカタ、インド東部沿岸最大都市のチェンナイに集約されています。

筆者は20代後半より当時勤務していた電機メーカーの担当業務でムンバイを拠点に長期にわたり駐在し、その後も今日に至るまで断続的にインドとの行き来をしてきました。30年以上インドビジネスに携わる中で、日本人ビジネスマンとは大きく異なる独特な考え方や、ビジネスの進め方に触れてきた経験から、インド人ビジネスマンの共通した気質をピックアップしましたので、ご紹介していきます。

①時間にルーズ

インド人ビジネスマンで間違いなく一番共通している点は、時間の観念が私たち日本人ビジネスマンとは大きく違う点です。予め予定されていたお客様との会議の日時に対して、定刻通り始めた記憶があまりありません。筆者が暮らしていたムンバイは当時より交通渋滞や、豪雨による道路の浸水、冠水など時間通りに物事が進まなくなる物理的な要因も多々ありましたが、根本的に日にちを守る、時間を守るという概念が日本人と比べると希薄です。また、今でこそ銀行の受付窓口やショッピングセンターの開館時間等は時間通りにオープンされるようにはなってきた一方、閉館の時間や会議の終了時間だけは以前と同様きっちりとしています。

②泰然自若としている

日系企業や欧米系の一流企業内においても報連相をきちんと励行できないインド人スタッフが多く散見されます。また仕事の納期を守れない人もいます。業務上で上司から注意や指摘を受けても自身のプライドがある程度でも保たれている場合にはインド人スタッフは大体の場合、泰然自若としています。社外においても街中や、レストランでも一般的にインド人は何を言われても、平静を保ちながら相手を見続け、泰然自若とした態度でいます。それが良いことなのかどうなのかは別の議論としても、日本人ビジネスマンから見ると相手が本当にわかっているのかいないのかが、よくわからないところです。

③超階級格差社会で生きている

インドでは紀元前13世紀頃にバラモン教の基ができ、そこからヒンドゥー教の身分階級制度であるカースト制度ができあがりました。今では憲法によって表面上はなくなりましたが、このカースト制度は現在も厳然としてインドの社会に残っています。筆者はこの制度の良し悪しを論ずるのではなく、あくまで事実としての内容のみをお伝えしますが、カースト制度ではまず家柄、血統からはじまりバラモン(司教者)、クシャトリヤ(王族、貴族)、ヴァイシャ(一般民)、シュードラ(労働者)の大別して4種に分かれ、この制度に属さないアウトカーストとしてアンタッチャブルに分けられます。また4種個々にはさらに細分化された多くの種、区分けがあり、職業や結婚、選挙等実際の場面ではいまだ多くの暗黙の制限や規制が残っています。そして、当然のことながらカースト制度はインドの富裕者層、中間層、低所得者層、貧民層といった経済的な格差とも正比例をしていることとなります。少し古いデータになりますが、2012年4月にインド政府が発表した所得層別人口の推移を見ても、世帯可処分所得3万5000ドル以上の高所得者層、同5000ドルから3万5000ドルの中間層、5000ドル未満の低所得者層の数値を見ても上から0.7%、32.8%、66.4%といかに高所得者層の比率が少ないかがわかるでしょう。このように多くの少数民族を含む民族と多種の言語を話す人がいて、身分制度と所得面からも大きな格差社会で生まれ育ったインド人は誰もが高度な教育、良い仕事、大きな蓄財、良い生活を強く望んでいます。そしてそれらを勝ち取るために、強い自己主張と自信、しつこいと思われるほどの執着心、逆に自分あるいは仕事には役立たないと判断した場合のドライな割り切りや人の関係の切り捨てを自然に身に付けています。また、高所得者や高い身分階級に生まれ育ったインド人は自らの素晴らしい環境や資産を守るために時に高圧的、超保守的な態度を取り続けることもあるでしょう。このように日本とは比較できないほど厳しい格差と区別(差別ではなく)社会で生きてきたさまざまなインド人と仕事を共にしていくのは容易なことではありません。

④外国語習得意識が高い

インドでは公用語がヒンディー語、準公用語が英語です。1870年代から約70年にわたってイギリスの植民地だったこともあり、都市部では幼稚園からほぼ全教育を英語で受けてきた人が多く、ある一定レベル以上の人々は発音やイントネーションはともかくとして、自在に英語を話せます。また英語やその他必要言語が堪能でなければインド大手企業や欧米、日系企業では通常採用されないため、幼児期から外国語習得に対する意識が非常に高いと言えるでしょう。前述した厳しい格差社会を生き抜いていくために、ものおじしない、自己アピールを強くする国民性と相まって、特にインド人ビジネスマンは他言語を操れる人が多くいます。

⑤プライドがものすごく高い

インド人ビジネスマンは誰でも非常に高いプライドを持っています。特にインド同様人口の多い中国でも同じような傾向がありますが、インドの場合には家柄、家系にはじまり多岐にわたる階級で構成されているカースト制度が残っているため、大手や日系を含む外資系の企業で働くビジネスマンは明らかに自分の専門分野では優秀で、その裏腹に高いプライドが付いてまわります。従って日系企業でインド人スタッフに注意するときや何らかの理由で叱るときには、他のスタッフの目や耳が届かないところで、冷静にロジカルに対応することが強く求められます。上司・部下の関係であっても一度でも気まずい関係になると、インド人スタッフはあっさりとその場で会社を去り、次の日には同業他社で仕事をしている、といったケースを筆者も幾つか目の当たりにしました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。ここまで、インド人ビジネスマンの気質や考え方を5つ挙げてみました。エンジニアリング関連のIT企業などを除いて、日本ではあまり接することのないインドのビジネスマンですから、私たちが思い描くインド人のイメージと異なることも多少はあるかもしれません。

次号ではそのようなインド人ビジネスマンとどのように接し、付き合っていけば共に上手く仕事をしていけるのか、その辺りを掘り下げて話を進めていきたいと思います。どうぞお楽しみに。

(次号へ続く)

■プロフィール
株式会社 サザンクロス 代表取締役社長
小田切 武弘

海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。
 
http://sc-southerncross.jp/

 
 

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