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コラム

オフを充実させ、より良いビジネスライフを! 大人が楽しむアウトドア考

アウトドアのオリジナルグッズ開発を手がける、イナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。楽しい野外活動では、安全第一が肝心。ところがそうは思っていても、不意のケガに見舞われるリスクはゼロではない。山林の中では近くに病院もなく、周囲に誰もいない。そんな状況下においてケガをしたとき、大切なのは冷静さを失わないこと、そして適切な処置を可能にする己の知識や経験だ。今回は、そんな緊急時の対策について。
 

◎自分だけは大丈夫だという心理

野外活動は、開放的で楽しいものである。楽しむためには、飛んだり跳ねたりするのは当たり前だし、それによる少々のケガもいとわないという方もいるかもしれない、そういう方は、自分だけはケガをしないという気持ちがあるのではないか。10分も経たずに救急車が来るのは、都会の真ん中にいる場合だけのこと。未舗装で草木が生い茂った山深いところなどでは、なかなかそうはいかない。だから、野外活動での安全確保は必須であり、特にケガには気を付けるべきだ。

「自分だけはケガをしない」という心理に陥るのは、実は人間に備わる「正常性バイアス」という性質が関係しているそうだ。これは心理学用語の一つで、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性のことを指す。この正常性バイアスが平時に働いた場合は、自分の周りで起きていることに対して、過敏に反応せずに冷静さを保つことができる。仮にそうではなかったとしたら、ことあるごとに過敏に反応しすぎて、神経が擦り減ってヘトヘトになってしまうだろう。しかし一方で、災害時や緊急時には裏目に出てしまうことがある。例えば、大雨などによる避難指示が出ていても、「今まで大雨が降っても避難指示はなかった。きっと今回の指示は大げさだから、無視して大丈夫だろう」と思いがちなのは、その特性が作用したからかもしれない。そのことを知っておくと良いだろう。

野外でケガを負うというのは、街中で同じケガをした場合とはリスクが異なってくる。特に医療的な措置が必要なケースで医療機関まで時間を要する場合、初動の遅れが致命傷につながる恐れもあるだろう。だからこそ、救急用品を準備していることや、止血の仕方、包帯の使い方などを知っていることは大切になってくる。

◎救急法受講の勧め

Wilderness(ウィルダーネス)という言葉を聞いたことはあるだろうか。和訳すると、「原野、荒れ野、原生自然など手の加えられていないもの」などを指す。そのような環境に対応するための一つの救急法として、Wilderness First Aidと呼ばれるものがある。北米では野外救急法として広く普及しており、山岳ガイドなどをするためには必須とされている資格だ。また、日本赤十字の行う救急法の資格をご存じだろうか。この講習では、簡単な止血法からはじまり、包帯の巻き方、三角巾での処置方法、心肺蘇生法などを学ぶことができる。ぜひ一度、気軽に受けてみてはどうだろうか。

私も仕事の関係上、救急法をいくつか受講している。実感としては、単に受けただけでは身に付いてはいないということだ。なぜならば、小さなケガに対応するケースはあっても、大きなケガに対応しなくてはならないケースはほとんどないからだ。つまり、せっかく習っても使う場がないから忘れていってしまう。ゆえに、それぞれの資格には定期的に更新のための講義を受ける仕組みもあるので、ぜひ活用したい。

ほかにも、安心してアウトドアを楽しむためにやるべきことがある。例えば、私が以前行っていた青少年向けの活動の中では、訪れる先の施設周辺の医療機関の情報はあらかじめ入手しておいた。そのうえで、その活動に関わる大人たちと、情報を共有しておく。万一に備えてそうした準備をしておくのは大事なことだ。家族や友人と楽しむアウトドア活動でも同様で、気持ちのゆとりを得るうえでも大切である。

◎安全第一のアウトドア活動を

みんなで行くアウトドアでは、以上のようなことを踏まえてキャンプを楽しめば、いざ何かがあったときに、みんなで助け合えるかもしれない。では、一人でのアウトドアではどうするか。昨今ではソロキャンパーなど、一人でアウトドアを楽しむスタイルが増えている。ソロキャンプと言っても、キャンプ場に行けば他の人もいるわけだが、完全に誰もいない場所に行って、一人時間を楽しもうとする方も少なくない。

私も時々、そのようなスタイルでキャンプをする。その良さを言うなれば、「誰も話す相手がいない」ということであろうか。「話す相手がいないことの何が良いの?」と疑問に思われるかもしれない。誰もいないということは、もめごとが起きないのでストレスが溜まらないということ。しょっちゅう喧嘩をしているわけではないが(笑)。加えて私の場合、日々の生活を冷静に振り返る時間に費やすことができる。

アウトドアシーンにおいて、私のような一人の時間の楽しみ方は、同時にある程度のリスクがあることも忘れないようにしたいものだ。応急処置の知識を得たり、出かけるときには、自分の行動予定を家族や知人になるべく詳細に伝えておいたりするのも良いだろう。万が一、捜索が必要なことになったとしても、救助までの時間の遅れが防げる。

企業活動においては、「安全第一」は最優先でもあることは言わずもがなである。ぜひアウトドアも「安全第一」を基本に楽しみたい。楽しいアウトドア活動のためにも、そして万が一の際に冷静でいられるためにも、まずは救急法を受講されてはいかがだろうか。
 

 

 

■プロフィール
森 豊雪

学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。
 
※保有資格
・NCAJ 認定 キャンプインストラクター
・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター
・日赤救急法救急員他
■企業情報
イナウトドア 合同会社
〒238-0114
神奈川県三浦市初声町和田3079-3
■URL
https://www.inoutdoor.work/
■Twitter
@moritoyo1

 
 

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