一歩を踏み出したい人へ。挑戦する経営者の声を届けるメディア

Challenge+(チャレンジプラス)

コラム

オフを充実させ、より良いビジネスライフを! 大人が楽しむアウトドア考

アウトドアのオリジナルグッズ開発を手掛ける、イナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。第3 回目のテーマは「ブッシュクラフトと防災」。サバイバルキャンプに参加した森代表が自身の体験を通じて、災害などにより、通常の生活が困難になった状況で非常に役立つ、ブッシュクラフトの知識と経験の大切さについて紹介します。
 

◎ ブッシュクラフトと防災

ブッシュクラフト。この言葉をお聞きになったことのある方も徐々に増えているのではないか。耳慣れない方に簡単に説明すると、「野外での遊びを通じて、実践的なサバイバル技術を学ぶ」といったところだろうか。ブッシュクラフトは、最小限の道具で野外活動を楽しむものだ。子どもの頃、それに近いことを自然にしていた人もいるかもしれない。

大人になった今は、お金さえ許せばアウトドアギアはいくらでも手に入るし、贅沢はいくらでも可能になっている。そうした中で、最小限のツールでサバイバル技術を磨く・・・といってもナイフ一本で一晩過ごすという過酷なものではない。例えば、テントを持っていかずとも森の木で(この場合は倒木などを利用)簡易シェルターをつくり、一晩過ごしてみるとか。普段利用している既製品よりも、森の恵みをお借りして楽しみながらできるのが、ブッシュクラフトだ。

ブッシュクラフトについて、「サバイバル技術を学ぶ」と述べた。昨今は自然災害の被害への対応や防災意識の高まりから、一般の方からも、サバイバル技術を体得したいという要望が高まっているように思う。中でも、東日本大震災をはじめとする、大きな災害の被災経験のある方々は、防災に関する意識・知識も大変高いものをお持ちだと感じる。自分自身はそこまでの被災経験もないので、少しでも機会をつくって疑似経験を積むとともに、1人でも多くの方にその技術を伝えたい思いがある。

先日、私は「水」「電気」を制約する「サバイバルキャンプ」に参加させて頂いた。ライフラインである水(あらかじめポリタンクに汲んである約40ℓの水のみ)と電気(懐中電灯やランタン、焚き火は可)の制約を受けたときに我々はどうするのか、何ができるのか。キャンプ地は東日本大震災の被害を受けた宮城県の気仙沼市。この地で「NPO法人浜わらす」を運営している天澤さんのお誘いで参加させて頂いたのだ。「浜わらす」は東日本大震災後の2013 年7 月、気仙沼市本吉町大谷地区で活動をスタートしている。津波によって、心に深く重い傷を負ってしまった子どもたち。今も復旧工事が続く同地では、子どもたちが簡単には海に近づけない状態にある。しかし、海の近くに生まれた子どもたちが「海を知らずに育つ」のはもったいない。子どもたちと海で遊ぼう!海で暮らすことを楽しもう!――そんな想いからスタートしたNPOなのだ。私も住む場所は違えど、海の近くに生活する1人として共感する部分も多く、無理を言ってキャンプに参加させて頂いた次第である。

◎ 身をもって水の大切さを知る

小学生を交えたメンバー11名での2泊3日のサバイバルキャンプ。初日は朝から豪雨だった。普通のキャンプであれば「残念な日」になってしまうのであろうが、水の制約を受けている我々にとってはまさに「恵みの雨」。あらゆる器を持ってみんなで走り回り、水を集めた。場所によってはシートまで張って水集めに注力した。キャンプ地のお風呂はドラム缶風呂。それだけの量の水集めは大変だ。でも頑張った甲斐あって、初日の水の確保は苦労することなく終わった。

2日目は晴れ。前の晩は、食器を洗うのにもふんだんに使えた雨水が、大量に手に入ったことが逆にあだになり、節約意識が不足してしまっていたのかもしれない。手持ちの水がみるみる減ったため、風呂の水は沢に汲みにいくしかなかった。それほど遠くはないのだが、水はドラム缶半分でも100kgの重さがある。運搬は決して楽ではない。水道の蛇口から飲める普段の生活がいかに恵まれているかを思い知らされる。水を汲むために汗をびっしょりかき、体内の水分を失ってしまった。

こうした環境で守らなければならない、優先順位の高いものは「体温の維持」だ。汗をかいてそのままにしておくと低体温症などに見舞われてしまう。それを防ぐには着替えをしっかりするなど体温を保つことを心掛けなければならない。次に必要なのは「水分」。仮に遭難などをした場合、人は水のない状態で72時間を超えると救助できる確率が極端に下がってしまうそうだ。だから、必要のない汗はかかないことが賢明で、キャンプ2日目の晴れは「水の大切さ」を痛感することになった。

3日目は再びの雨。初日の水の使い方を反省して、同じことをするのにも節約する方法をいくつか実践できるようになっていた。最後の反省の場面で子どもたちは、「水の大切さが分かった!」と言っていた。普段何気なく使っているものに感謝したり、必要性を知ったりするのに、本当に良い時間になったと思っている。何事も身をもって知った経験は大変貴重だ。特にブッシュクラフト中の経験は、机上で知ったこととは比べ物にならない。自然の中では刻一刻と環境が変化している。ブッシュクラフトでは、その変化に対応することが求められるのだ。

◎ 楽しみ方の選択肢が増えている

ブッシュクラフトは大変楽しいものだ。自分のお気に入りのナイフを手に、森の中にある枝などでフォークをつくったり、箸をつくってみたり。また、調理にも森にあるものを最大限利用するなど、自分の脳も創造性を刺激される。現在の生活は何もしなくても家電が何もかもやってくれる時代になってきた。便利この上ないのだが、逆に人間が自然の中で考えるということができなくなっていくのではないかと危惧する。ブッシュクラフトをしているときは、想像力を働かせ、置かれた状況を踏まえ頭をフル回転させて対策を練っている。これが貴重な経験になるのだ。

災害後、通常の生活が困難になった状況で、冷静な判断力で対応できるかどうかは、普段からの知識・経験が大きくものをいう。そのためにも、森や山に入り、ブッシュクラフトを通じてサバイバル技術を磨いてはいかがだろうか。忘れ物なんかは気にしない。忘れたもの、ないものは工夫で何とかする。それが緊急時に自分や家族を救う力になるのだから。

 

 

■プロフィール
森 豊雪

学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。
 
※保有資格
・NCAJ 認定 キャンプインストラクター
・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター
・日赤救急法救急員他
■企業情報
イナウトドア 合同会社
〒238-0114
神奈川県三浦市初声町和田3079-3
■URL
https://www.inoutdoor.work/
■Twitter
@moritoyo1

 
 

<<  第2回 プチキャンプに行こう! 第4回お一人様キャンプのススメ>>

躍進企業応援マガジン最新号

2024年3月号予約受付中!