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コラム

オフを充実させ、より良いビジネスライフを! 大人が楽しむアウトドア考

アウトドアのオリジナルグッズ開発を手がける、イナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。今回のテーマは「富士登山」だ。日本を象徴する存在として敬われ、2013年には世界文化遺産にも登録された富士山。ハイシーズンには多くの登山客でにぎわうが、登頂に挑む際の楽しみ方や注意すべきポイントについて紹介していく。
 

◎富士登山の時期とルートについて

富士山――言わずもがな、日本一の高さを誇る山だ。アウトドアを楽しむ多くの人にとって、富士山は“一度登ってみたい存在”であるに違いない。登山家を自称するほどではないが、私も何度か登ったことがある。今回はその時の経験を頼りに、富士登山の楽しさや注意したい点についてお話しさせていただこうと思う。

まずは、登山の時期とルートについて。富士山は年間を通じて登山可能な山だが、山開き期間以外は別の許可を取る必要がある。そのため一般的には、山開き期間である7月~8月にシャトルバスなどで5合目まで行き、そこから頂上に向かって登山する、というのが基本パターンとなる(ハイシーズンにはマイカー規制があるので、自分の車で行きたい方は要注意)。

富士登山の主な目的の1つに「山頂でご来光を拝む」ということが挙げられる。日の出のタイミングで山頂にいるためには、前日の昼過ぎには5合目から登り始め、夕方に途中の山小屋で仮眠を取り、そして真夜中に起きて翌朝4時過ぎの日の出を目指して出発する必要がある。最近では、この時間帯でさえ登山道が混み合って人の大渋滞が発生し、山頂に到達できないうちに日の出を迎えてしまうということも少なくない。「せっかくだから山頂でご来光を拝みたい」という気持ちは分かるが、事故につながるような無理な追い越しだけは絶対にせず、余裕を持ったスケジュールで行動することを推奨したい。

ちなみに、富士山にはいくつかの登山道があって、そのうちの吉田口登山道は、東側の空に面しているため、頂上に着く前でもしっかり日の出を見ることができる。5合目の食事処なども充実しており、山小屋も多いので、絶対に日の出を見逃したくないという方にはおすすめだ。

◎高山病・低体温症のリスクと注意点

富士山は2013年に世界文化遺産に登録された前後から特に人気が急上昇したように思える。多くの人に親しまれているのは素晴らしいことではあるが、そうは言っても日本最高峰の山。登山時にはできうる限りの準備をする必要がある。中でも特に注意しなければならないのが高山病だ。高山病というのは、体に取り込む酸素の量が低下する環境で発症するため、日常の体力の有無でかかる・かからないの判断ができない病気だ。富士山の山頂付近では、空気中の酸素濃度こそ変わらないものの、気圧が地表より低く、かなり息苦しく感じられる。血中の酸素濃度が低下すると体にさまざまな問題が生じることは、最近の新型コロナウイルス感染症でも明らかであり、そうした状況になりやすい登山時には、意識して呼吸をすることが求められるのだ。富士山は5合目でさえ、標高2400~2500mに達する。到着したらすぐに登山を開始するのではなく、まずは高度に体を慣らすために、その場で1時間程度休憩をとったり、少し周辺を歩いたりしたい。健脚な人ほど、どんどん登ってしまい高山病にかかってしまうケースもある。最悪の場合には死に至る病なので、決して侮ることなく、体が順応できない場合はすぐに登山を中止しよう。

また、低体温症にも気を付けたい。富士登山のハイシーズンである7月、8月は真夏で、低体温症とは無縁だろうと高をくくる方もいるかもしれないが、富士山の山頂は標高3776m。一般的に、気温は高度が100m上がるごとに約0.65℃下がると言われている。つまり、地上が30℃であったとしても、頂上は6℃くらいしかないのである。間違っても軽装で行くことのないよう留意されたい。

◎“海抜ゼロメートル”からの富士登山も

さて、ここまでは富士登山での気を付けたい点をお話ししてきたが、やはり登山は気持ちの良い、楽しいものなので、そちらにもフォーカスしてみたい。富士登山は5合目から行うツアーが最もメジャーだと聞くが、前述した通り富士山には複数の登山道があって、一口に5合目と言っても、標高も頂上までの距離もそれぞれ異なっている。短距離だが急こう配で健脚の人向きとされる登山道もあれば、吉田口のように5号目から一度下がってから再び登り始めるような登山道もある。どの登山道をどの時間帯に行くかは、人それぞれだ。もちろん、「山登りなので麓から」という楽しみ方もあるだろう。その1つのルートが、山梨県側の浅間神社からの登山である。利用者はそれほど多くなく、道中にも山小屋や売店などはほとんど無い。自然とじっくり向き合うにはもってこいの環境だが、補給地がない分、水をはじめ持って行くべきものはしっかりそろえておきたい。

さらに、麓からでも物足りないという方には、「“海抜ゼロメートル”からの富士登山」をおすすめする。静岡県の田子の浦などから出発して、約50kmの道のりを歩いて山頂を目指すのだ。私自身はそのルートに挑戦したことはまだないが、山頂でたまたま出会った青年が、見事に踏破していた。しかも、道中を小走りで来るぐらいの時間で辿り着いたというから驚かされた。富士山1つを取っても、いろいろな楽しみ方があるのだなと。

先に紹介した「ご来光を拝む」ことを目的とした富士登山にも、実はもう1つの楽しみがある。それは、山麓から見る満天の星空だ。前泊する山小屋にはわずかな明かりはあれど、周囲はかなり暗いので、休憩中に夜空を眺め、流れ星を探すというのも一興だろう。「我々人間は自然界の中で生かされているんだ」と感じるひと時になるかもしれない。

そんな楽しさ満載の富士登山だが、残念ながら2020年はコロナ禍の影響で全山で登山中止となっていた。霊峰富士―古来より、大きなものには神様が宿るとされてきた。神は敬うものであり神頼みはいけないと思いつつ、なんとかまたいつもの富士山に戻ってほしいと思わずにはいられない。一人ひとりが快適に暮らし、その中で登山やアウトドアを楽しめる世の中を取り戻したいと願うばかりだ。

 

 

■プロフィール
森 豊雪

学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。
 
※保有資格
・NCAJ 認定 キャンプインストラクター
・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター
・日赤救急法救急員他
■企業情報
イナウトドア 合同会社
〒238-0114
神奈川県三浦市初声町和田3079-3
■URL
https://www.inoutdoor.work/
■Twitter
@moritoyo1

 
 

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